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来月の資金繰りが読めない小さな会社へ|AIで入出金の見通しを月1回作る

来月の資金繰りが読めない、という不安の正体は、たいていお金が足りないことそのものではありません。手元にある通帳・請求・支払予定という3つのデータが、頭の中でしか突き合わされていないことです。だから毎月同じ不安を、同じ精度の低さで抱え直すことになる。この記事で提案したいのは、月に1回だけ、この3つを同じ形に揃えてAIに読ませ、来月から3か月分の入出金の見通しを一枚にまとめる型です。狙いは経理作業を速くすることではなく、社長が判断に使える材料をつくること。だから最後に、AIに任せてよい範囲と、絶対に人が持つべき範囲の線引きまで書きます。

「なんとなく足りそう」で意思決定している状態が一番こわい

手元の通帳や請求書が突き合わされないまま、来月の資金の見通しが曖昧になっている様子のイラスト

那覇や浦添あたりで社員数名から十数名の会社とお付き合いしていると、資金繰り表を作っていない会社は珍しくありません。作っていないのは怠慢ではなく、作っても翌週には現実とズレるからです。工事の入金が半月ずれる、材料の支払いが先に来る、観光の波で売上が上下する。エクセルに入れた数字が当たらないと分かった瞬間、人は表を更新しなくなります。

そのかわり何が起きるかというと、社長の頭の中に「たぶんこのくらい」という感覚だけが残ります。そしてこの感覚は、意外なほど当たります。長年やっていれば当たるのです。問題は、当たっているうちは誰も検証しないこと、そして外れたときに気づくのが遅すぎることです。人を1人採るかどうか、車両を入れ替えるかどうか、単価の安い仕事を断るかどうか。こうした判断は数十万円から数百万円の未来の出入りを前提にしますが、その前提が「なんとなく」のままだと、判断そのものは正しくても、タイミングだけが間違うということが起こります。

資金繰りの見通しは、当てるためのものではありません。外れ方の幅を知るためのものです。来月末の残高が三百万を切りそうなのか、切らないのか。切るとしたら何が効いているのか。それが月初に一目で分かるだけで、「今月は攻めていい月」「今月は握っておく月」の区別がつきます。この区別がつくかどうかが、小さな会社では体力の差になって出ます。

毎日やろうとするから続かない。月1回でいい理由

資金繰り管理というと日繰り表を思い浮かべる方が多いのですが、社員十名前後の会社で日繰りを回そうとすると、まず間違いなく続きません。入力する人がいないからです。経理担当がいても、その方は請求書の発行と支払処理と給与計算で手一杯で、予測のための入力にまで手が回らない。社長が自分でやると、忙しい月ほど止まります。

一方で、月1回であれば話は変わります。月初の午前中、だいたい一時間半から二時間。ネット銀行の明細をダウンロードして、請求済みで未入金のものを一覧にして、支払予定を並べる。この程度なら誰かの隙間時間に収まります。そして小さな会社の資金繰りにおいて、月次の粒度で見えていれば実務上ほぼ足ります。日単位で危ないのは、月末数日の支払い集中日だけで、そこは月次の見通しの中に「この月末は厳しい」と書いてあれば事前に手が打てるからです。

頻度を落とすかわりに、精度は上げます。頭の中の感覚ではなく、実際のデータを毎回同じ手順で突き合わせる。同じ手順で作ることに意味があって、3か月も続けると「先月の見通しと実際はどこがどうズレたか」が比較できるようになります。この差分こそが、その会社固有の癖です。この業種は入金が遅れる、この取引先は月末締めの翌々月払い、この季節は材料費が先行する。癖が言語化されると、次の月の見通しは黙っていても精度が上がります。

用意するのは3つだけ:通帳・請求・支払予定

必要なデータは3種類です。多くの会社は、この3つを全部持っています。ただしバラバラの場所に、バラバラの形で持っています。

1つ目は通帳、つまり入出金の実績です。ネットバンキングからCSVで落とせる期間はだいたい直近数か月分。まずは過去6か月あればじゅうぶんです。ここから読み取りたいのは、毎月必ず出ていく固定的な支払い(家賃、リース、保険、通信、返済)と、変動する支払い、そして入金のタイミングの実際です。「25日入金と聞いていたが、実際は月末に寄っている」といったことは、通帳を並べて初めて分かります。

2つ目は請求のデータ。発行済みで、まだ入金されていない請求書の一覧です。会計ソフトや請求書サービスを使っていれば書き出せますし、エクセル管理でも構いません。必要な列は、取引先名、請求金額、請求日、入金予定日の4つ。入金予定日が空欄の行が多いなら、そこがまず埋めるべき穴です。

3つ目は支払予定。仕入・外注の支払い、給与、社会保険、税金、借入返済。ここは会社によって管理がいちばん雑になりやすいところで、頭の中にしかないことも多い。最初の1回だけは、通帳の過去実績を見ながら「これは毎月出る」「これは年に1回出る」と拾い出す作業が要ります。手間はかかりますが、これは初回だけの作業です。

この3つを、それぞれCSVかスプレッドシートの形にします。凝ったフォーマットは要りません。列の意味が人間に分かる状態であれば、AIは読めます。むしろ、複雑な計算式や結合セットが入った「立派な」エクセルのほうが扱いにくいくらいです。

AIに渡すのは「集計」と「傾向の言語化」の2つ

通帳・請求・支払予定の3つのデータを1つにまとめ、集計と傾向を整理するイメージのイラスト

データが揃ったら、AIに何をさせるか。ここを曖昧にしたまま「資金繰りを分析して」と投げると、当たり障りのない一般論が返ってきて終わります。頼むことを2つに分けて、はっきり指示するのがコツです。

1つ目は集計です。3つのデータを月別に並べ直し、来月・再来月・その次の月について、入金見込みの合計、支払予定の合計、月末の想定残高を出させる。ここは計算なので、AIは正確にこなします。ポイントは、前提を明示させることです。「入金予定日が空欄の請求書は、請求日の翌月末に入金されると仮定した」「季節変動は考慮していない」といった前提を必ず書かせる。前提が書いてあれば、読んだ社長が「いやこの取引先は翌々月だ」と直せます。前提の書いていない予測は、直しようがないので使えません。

2つ目は傾向の言語化です。数字の羅列だけでは判断材料になりません。「この3か月で残高がいちばん薄くなるのは○月末で、要因は賞与と納税が重なっているため」「入金の平均遅延が約2週間あり、これを織り込むと○月の中旬に一時的に厳しくなる」といった文章にしてもらう。人間が読んで、そのまま社内で口に出せる言葉になっているかどうかが基準です。ここはAIがかなり得意な領域で、同じ数字を見ても人間が見落とす「重なり」を拾ってくれます。

逆に言えば、AIに任せるのはこの2つまでです。「だからどうすべきか」までAIに書かせると、その会社の事情を知らないまま一般論の対策が並び、社長がそれを読み飛ばすようになります。読み飛ばされる資料は、いずれ作られなくなります。

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月初の2時間で回す実際の手順

具体的な流れを書きます。前月が締まった直後、月初の3営業日目あたりを固定日にするのが現実的です。

まずネットバンキングから前月分を含む明細をCSVで落とし、会計ソフトから未入金の請求一覧を出し、支払予定のシートを開いて前月に発生した変更(新しいリース契約が始まった、借入を1本返し終わった等)を反映します。ここまでが手作業で、慣れれば30分ほど。

次に、この3つをAIに読ませて、上に書いた集計と傾向の言語化を出させます。出てきたものをそのまま信じず、社長か経理担当が2点だけ確認します。1点目は入金予定日の妥当性。金額の大きい上位数件について、本当にその月に入るのかを取引先ごとの実態と照らす。2点目は臨時支出の抜け。車検、更新料、賞与、決算の納税など、毎月は出ないが確実に来るものが入っているか。この2点さえ潰せば、見通しの精度は実務で使えるところまで上がります。

最後に、A4一枚に相当する分量まで削ります。3か月分の残高推移と、いちばん薄くなる月と要因、そして「先月の見通しと実際のズレ」の3項目です。これを毎月同じ形で残していくと、半年後には自社の資金の癖が読める資料になっています。

作業担当目安時間
3つのデータの書き出し・更新経理担当30分程度
集計と傾向の言語化AI数分
入金予定と臨時支出の確認社長または経理担当30分程度
一枚にまとめて共有経理担当15分程度

※時間はあくまで目安で、取引件数や管理状況によって変わります。初回だけは支払予定の洗い出しに別途時間がかかります。

沖縄の会社でよく効く「ズレの読み方」

県内の中小企業を見ていて、資金繰りの見通しを狂わせる要因にはいくつか傾向があります。断定はできませんが、自社に当てはまるかどうかを確認する切り口として挙げておきます。

ひとつは元請け・下請けの階層による入金の後ろ倒しです。建設や設備の分野で、元請けからの入金が現場の完了とずれる。しかも複数現場が並行していると、どの現場の入金がいつ立つのかが社長の頭の中でしか整理されていない。ここを請求データとして一覧にするだけで、見通しの精度は目に見えて変わります。

もうひとつは季節の波です。観光関連なら夏と冬で桁が違いますし、それに引きずられて飲食や小売、それらを顧客に持つ業種も動きます。台風の影響で1週間工事が止まれば、その分の入金は翌月に押し出されます。月次で見通しを作り続けていると、この押し出しがどのくらいの幅で起きるのかが数字として蓄積されます。「例年8月は入金が2週間後ろにずれる」と分かっていれば、7月の段階で手が打てる。これは日繰り表では見えず、月次の記録を数か月ぶん並べて初めて見える性質のものです。

3つ目は補助金や助成金の入金時期です。採択されたから資金が入るわけではなく、多くは事業を実施して精算した後に入ります。つまり先に出ていく。この時間差を見通しに入れていないと、採択された年ほど資金繰りが苦しくなるという逆転が起きます。制度によって条件も時期も違うので一般化はできませんが、少なくとも自社が申請しているものについては、支出と入金のタイミングを分けて見通しに載せておく必要があります。

AIに任せない範囲をはっきりさせる

ここが本題です。上の型を回していると、だんだんAIが出す文章の精度が上がってきて、任せる範囲を広げたくなります。そこで一度立ち止まったほうがいい線が2本あります。

1本目は金融機関への説明です。銀行や信用金庫に資金繰り表を出して融資の相談をする場面で、AIが作った資料をそのまま持っていくのは避けたほうがいい。理由は資料の出来ではなく、聞かれたときに答えられるかどうかです。「この○月の入金見込みの根拠は」と担当者に聞かれて、社長が「AIが出しました」と答える状況は、数字そのものより信用に響きます。逆に、前提と確認箇所を自分で潰したうえで持っていけば、AIが下地を作った資料でも何の問題もありません。作った人ではなく、説明できる人がいるかどうかが問われていると考えてください。

2本目は意思決定そのものです。「この見通しなら採用を1人止めるべきか」「この設備投資は来期に回すべきか」。AIに聞けば、それらしい答えは返ってきます。しかしその判断には、その会社が今どういう局面にいるか、社長が何年でどこまで持っていきたいか、社員に何を約束しているかといった、データに現れない前提が効きます。AIはそれを知りません。見通しは判断の材料であって、判断の代わりではない。この区別をあいまいにすると、うまくいかなかったときに「なぜそう決めたのか」を自分で説明できなくなります。

逆に言えば、この2本の線の手前側はどんどん任せていい領域です。データを月別に並べ直す、合計を出す、重なりを見つける、それを日本語の文章にする。ここは人がやっても価値が生まれにくく、しかも人がやると面倒で続かない部分です。AIエージェントの活用という言葉が指しているのは、まさにこの「価値は低いが継続が必要な作業」の肩代わりで、資金繰りの見通しづくりはその典型例だと考えています。

最初の1か月をどう始めるか

いきなり完璧な型を目指すと、たいてい支払予定の洗い出しで力尽きます。おすすめは、初月は通帳の実績6か月分だけをAIに読ませることです。「毎月必ず出ている支払いを金額と日付の傾向つきで一覧にして」と頼めば、固定費の一覧が出てきます。これが支払予定シートの下地になります。自分で思い出しながら書くより速く、しかも漏れが少ない。

2か月目に請求データを足して、入金予定の精度を上げます。3か月目に臨時支出を織り込む。この順番なら、毎月の作業が少しずつ増えるだけで、どこかで挫折するリスクが小さくなります。そして3か月続いた時点で、先月の見通しと実績の比較が2回分たまり、自社の癖が見え始めます。

ツールについては、会計ソフトの資金繰り機能を使うのか、スプレッドシートとAIの組み合わせでいくのかは、既に何を使っているかによります。すでに会計ソフトにデータが入っているなら書き出しが楽ですし、エクセル管理が中心なら無理に移行する必要もありません。これまでの記事でも触れてきたとおり、新しい仕組みを入れる前に、いま手元にあるデータをどう繋ぐかを考えたほうが、続く確率は高くなります。

まとめ:見通しは当てるためでなく、判断の幅を知るために作る

来月の資金繰りが読めないという状態は、データが無いから起きているのではなく、持っているデータが突き合わされていないから起きています。通帳・請求・支払予定の3つを、月に1回だけ同じ手順で並べ直す。集計と傾向の言語化はAIに任せ、入金予定の妥当性と臨時支出の抜けだけは人が確認する。そして金融機関への説明と、投資や採用の意思決定は、必ず自分の言葉で持つ。

この型の価値は、資金繰りが良くなることではありません。同じ資金状況でも、判断のタイミングを間違えにくくなることです。攻めていい月と、握っておく月を月初に区別できる。それだけで、小さな会社の一年の使い方はかなり変わります。

自社のデータでどこまで実現できそうか、既存の会計ソフトや管理表からどう繋ぐのがよいかは、状況によって変わります。進め方の相談はお問い合わせからお気軽にどうぞ。まずは現状の管理方法をうかがったうえで、どこから手をつけるのが現実的かを一緒に整理します。