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案件ごとの利益が見えない小さな会社へ|AIで工数と原価を後から追う

案件ごとの利益が見えない原因は、たいていの場合「集計していないから」ではなく、集計する材料が最初から残っていないからです。見積の根拠がメールの本文だけに書かれていて、作業時間は誰の頭の中にもなく、外注費はカード明細で気づく。この状態でどれだけ表計算を頑張っても、案件別の粗利は出てきません。逆に言えば、工程ごとに「どこに何を残すか」を先に決めてしまえば、月末の突き合わせはAIに任せられる領域に入ります。この記事では、沖縄の小さな会社にありそうな1件の案件を、見積・作業中・納品・請求の順に追いかけながら、記録の置き場を決める手順を追っていきます。

那覇の内装会社が「終わってから焦る」ところまで

仮に、従業員6名の内装工事会社を思い浮かべてください。社長が営業と現場を兼ね、事務が1名、あとは職人。ある日、県内のクリニックから内装の一部改修の相談が入ります。社長は現場を見て、頭の中で「材料でこれくらい、人が3日、あとは電気屋さんに一部お願いして」と組み立て、事務所に戻ってExcelの見積書に金額を打ち込みます。ここまでは速い。むしろ、この速さがこの規模の会社の強みです。

問題は終わったあとに起きます。工事が延びて職人が半日追加で入り、材料を1回買い足し、外注先の請求が想定より少し高い。それぞれは小さな話なのに、合計すると「思っていたより残らなかった」になる。しかも、その「思っていた」の中身が残っていないので、次回の見積に反映できません。翌月また似た案件を受け、同じように削られる。案件別の利益が見えない会社で起きているのは、単発の失敗ではなく、この反復です。

ここで手をつけるべきは、原価計算の理屈より前の段階です。見積の根拠、実際に動いた時間、買ったもの、外注に出した分。この4つが後から機械的に読める場所に置かれているかどうか。置かれていれば、突き合わせは作業として成立します。置かれていなければ、どんな仕組みを買っても入力の手間だけが増えます。

見積の時点で「後から比べられる形」にしておく

見積の内訳を社内用の一覧に残すイメージ

最初の分岐点は見積です。多くの場合、見積書は客先に出す一枚として完成度が高く、社内で使う数字としては使えない形になっています。「工事一式」でまとめてしまえば、あとで実績と比べる相手がいません。かといって客先に細かい内訳を全部見せたいわけでもない。だから、客先に出す見積書と、社内に残す見積の内訳を分けるのが現実的です。

社内側に残すのは、そう多くありません。案件を識別する番号、材料費の見込み、人が何時間かかる見込み、外注に出す予定があるならその見込み額。この程度で十分です。大事なのは項目数ではなく、案件番号が振られていることと、その番号が後の工程でも同じ形で使われることです。案件番号がないと、月末に集まってくる時間の記録や領収書が、どの案件のものか判別できません。日付と担当者から推測する作業が発生した時点で、AIに任せるどころか人がやっても間に合わなくなります。

番号の付け方は凝らなくてよく、年月と連番程度で足ります。むしろ凝ると運用が続きません。事務が見積書を作った瞬間に番号が決まり、それをスプレッドシートの1行として控える。その行に、後で実績が並ぶ。この形を作るところまでが見積工程の仕事です。

作業中の記録は、職人に表を書かせない方法で

次が最大の難所です。工数の記録は、現場に紙やアプリを渡して書いてもらう方式にすると、まず定着しません。手が汚れている、電波が悪い、そもそも入力する習慣がない。責任感の問題ではなく、記録が本業の外側にあるからです。ここを人の意識で解決しようとすると、数か月で誰も書かなくなり、また元の「わからない」に戻ります。

現実的なのは、すでに毎日発生している行動に記録をぶら下げるやり方です。多くの現場では、その日の終わりに何らかの連絡が入っています。LINEやチャットに「本日〇〇クリニック、3人で午前から夕方まで、ボード貼りまで完了」といった一言が飛ぶ。この一言は、実は工数の記録として十分な情報を含んでいます。案件名、人数、おおよその時間、進んだ工程。足りないのは「案件番号」と「後から機械的に読める場所にあること」だけです。

そこで決めるのは新しい報告フォーマットではなく、置き場です。日報のやりとりを一つのチャンネルやグループに寄せる。あるいは、その日の終わりに事務が受けた連絡を、案件番号の入った1行としてスプレッドシートに転記する。転記が発生するのは面倒に見えますが、1件あたり十数秒であり、しかも「今日どの現場が動いたか」を事務が把握できる副産物があります。現場に新しい負担をかけず、記録の側を寄せるという発想です。

材料と外注も同じ考え方で扱います。領収書を案件番号ごとに封筒やクリアファイルに入れる、写真で撮って案件番号をファイル名に入れて共有フォルダに置く、そのどちらでもかまいません。決めるべきは「入れる場所」で、方式の優劣ではありません。外注については、発注した時点で見込み額を1行残しておくと、あとで請求書が来たときの差分がそのまま学びになります。

納品前後の追加作業をどこに書くか

案件別の利益が崩れる一番の要因は、途中で増えた作業です。「せっかく来てもらったので、あそこも直してほしい」「図面と現場が少し違ったので調整した」。金額が動くほどではないから見積は変えない、でも人と時間は確実に減っている。これが積み上がって、終わってみたら残らなかったという結果になります。

ここは記録の置き場を工夫するというより、追加が発生したという事実を、判断せずに一行だけ残すのがコツです。無償で対応するか請求するかは後で決めればよく、現場や社長がその場で判断する必要はありません。「〇月〇日、追加で棚の造作、半日」と残っていれば、月末に「この案件は追加で1.5人日入っている」と見える。見えたうえで無償だったと結論するなら、それは経営判断です。見えないまま消えるのとは意味が違います。

納品時にもう一つやっておくとよいのは、その案件の記録が揃っているかを事務が確認することです。時間の記録が入っているか、領収書が入っているか、外注の請求が来ているか。この確認は数分で終わり、月末に「材料費がどこにもない案件」が出てくるのを防ぎます。締めの直前に探し回る時間のほうが、よほど高くつきます。

月末に突き合わせる ― ここからがAIの仕事

バラバラの記録をAIが案件別に突き合わせるイメージ

ここまでで、案件番号を軸にした材料が集まっています。見積の内訳、日報から起こした時間の行、領収書の写真かPDF、外注の請求書。形式はバラバラで、書きぶりも人によって違います。この「揃っているが整っていない」状態を扱うのが、AIが一番働く場面です。従来の集計ツールは、決まった形で入っていることを前提にしていました。だから入力の負担が現場に押し戻され、続かなかったわけです。

具体的には、案件番号ごとに集まった記録をまとめてAIに渡し、案件別の一覧に整えてもらいます。日報の文章から人数と時間を読み取って合計する、領収書の画像から日付・金額・内容を拾う、外注の請求書と発注時の見込みを並べる。そのうえで、見積の内訳と実績を並べた表を作らせ、差が大きい案件を上に出してもらう。人がやると半日かかる作業が、材料が揃っていれば現実的な時間に収まります。

大事なのは、AIに判断させず、並べさせることです。「この案件は赤字だから受けるべきでなかった」といった評価はいりません。見積と実績、その差、差の内訳。そこまで出れば、経営判断は社長がその場でできます。読み取りミスの可能性もあるので、金額の大きい案件と差の大きい案件だけは元の資料と目視で照合する。この一手間を運用に入れておけば、精度の不安はかなり小さくなります。

なお、どこまで自動化できるかは、記録の残り方と件数によって変わります。月の案件が数件なら人が見たほうが速い場面もありますし、数十件を超えてくると突き合わせを人手でやる意味が薄くなります。仕組みを作る前に、まず1か月ぶんを手作業とAIの併用でやってみて、どこに時間がかかるかを見るのが確実です。

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置き場所の決め方 ― 現実的な選択肢を並べる

記録の置き場については、正解を1つに絞る必要はありません。今ある道具の延長で選ぶのが続くコツです。参考として、小さな会社で実際に選ばれやすい組み合わせを並べておきます。どれを選ぶかは、社内で誰が入力するか、現場がどんな連絡手段を使っているかで決まります。

残すもの置き場の候補向いている会社注意点
見積の社内内訳スプレッドシート1枚(案件1行)案件数が月数件〜数十件客先用の見積書と分けて管理する
作業時間チャットの日報+事務が転記現場が入力に慣れていない案件番号を必ず添える
作業時間勤怠や工程管理の既存ツールすでに何か導入済み案件単位で出力できるか要確認
材料費領収書を撮影して共有フォルダ買い出しが現場任せファイル名に案件番号を入れる
外注費発注時の見込みと請求書を同じ行に外注比率が高い請求が翌月に来る場合の締め方を決める
追加作業案件の行にコメントを1行追加すべて有償無償の判断は後回しにする

会計ソフトの側で案件別に分ける方法もありますが、こちらは仕訳の運用を変える話になるため、先に社内の記録を整えてから検討したほうが安全です。順番を逆にすると、経理の負担だけが増えて数字は出ないという状態になりがちです。

沖縄の中小企業でつまずくのは、たいてい人の配置

仕組みの話より先に、誰がこの運用を持つのかを決めておく必要があります。小さな会社では、社長が営業から現場まで見ていて、事務が1〜2名。この体制で「案件別原価管理の担当」を新設する余裕はありません。だから、既存の誰かの仕事に、数分単位で足せる形にしないと動きません。

現実的には、事務が日報を受けて1行転記し、月末にAIへ渡す準備をする、というあたりが落ち着きどころです。社長は月末に出てきた表を見るだけ。この配置なら、社長が忙しくても止まりません。逆に、社長自身が入力の起点になる設計にすると、繁忙期に必ず止まります。止まった月のデータが欠けると、比較の土台が崩れて「やっぱり見えない」に戻ってしまいます。

もう一つ、県内では繁忙の波が業種によってはっきり出ることがあります。観光関連なら時期で山谷があり、建設なら年度末に集中する。波の大きい会社では、忙しい月ほど記録が薄くなり、そういう月に限って利益が読めません。だからこそ、記録の手順は「暇なときにできること」ではなく「一番忙しい週でも回ること」を基準に決めるべきです。項目を欲張らないのは、そのためでもあります。

担当や運用の設計を含めて相談したい場合は、AI活用の支援内容もあわせてご覧ください。どこまで自動化するかは、社内の体制と記録の状態によって変わります。

3か月続けると、見積の勘が数字に変わる

この取り組みの効果が出るのは、集計を始めた月ではありません。数か月ぶんの案件が並んだときです。同じような工事でも、案件によって人日が1.5倍違う。特定の元請けの案件は必ず追加作業が入る。ある種の工程だけ、見積の時間が実態と合っていない。こうした傾向は、1件では偶然にしか見えず、複数並べて初めて傾向として立ち上がります。

そして傾向が見えると、見積の作り方が変わります。「この種類の案件は、経験上もう半日見ておく」と根拠を持って言えるようになる。値上げ交渉が必要な取引先も、感覚ではなく実績を材料に話せます。案件別の原価を追う本当の目的は、過去の反省ではなく、この次の見積の精度にあります。

逆に、始めたばかりの1〜2か月は、記録の抜けを埋める作業が中心になります。ここで「手間ばかりかかる」と感じて止めてしまう会社が少なくありません。最初の数か月は精度を求めず、抜けがあってもそのまま並べる。抜けている項目自体が「その情報がどこにも残っていない」という発見なので、それも成果として扱ってしまうと続きやすくなります。

まとめ ― 決めるのは集計方法ではなく置き場

案件ごとの利益を見えるようにする作業は、突き合わせの技術というより、記録の設計です。見積の社内内訳を1行残し、日報から時間を起こし、領収書と外注費を案件番号で束ね、追加作業を判断せずに書き残す。この4つが揃った状態を作れば、月末の突き合わせはAIが担える範囲に収まります。逆に、材料が散っているうちに集計の仕組みだけ入れても、入力の負担が現場に戻って続きません。

始め方としては、今動いている案件を1件だけ選んで、その案件についてだけ4つの置き場を決めてみるのが軽くて確実です。1件で回れば、その手順をそのまま全案件に広げられます。うまくいかない部分があれば、それは全社に広げる前に見つかったほうがよい問題です。

自社の記録の状態から何を整えるべきか整理したい場合は、お問い合わせからご相談ください。業種や案件数、いま使っている道具によって進め方は変わるため、まずは現状を伺ったうえで、どこから手をつけるかを一緒に決めていきます。