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原材料のロットをさかのぼれない食品工場へ|製造記録からAIで追跡表を1枚に

取引先から「この賞味期限の商品について確認したい」と電話が入ったとき、使った原材料の入荷日や仕入れ先まですぐ答えられる食品工場は、規模が小さいほど多くありません。記録をつけていないわけではありません。入荷伝票は事務所のファイルに、仕込みの記録は製造現場のノートに、出荷は配送伝票の控えに、それぞれきちんと残っています。追えなくなる原因は、記録と記録をつなぐロット番号の受け渡しが途中で切れていることです。

先に結論を書きます。手書きの製造記録と入荷伝票を写真に撮ってAIに読ませ、ロット番号を軸に「入荷→仕込み→充填→出荷」を1枚の追跡表にまとめるところまでは、紙の運用を変えずに始められます。慣れてきたら、記録の取り方を少しずつ表に移していきます。この記事では、どこで糸が切れるのかを4つの工程に分けて見たあと、紙のまま始める段階と表で管理する段階の進め方を説明します。最後に、AIに任せず人が必ず照合する項目として、アレルゲンと賞味期限を切り分けます。

回収の電話が入ったとき、工場の中で何が起きているか

取引先からの問い合わせを受け、入荷伝票や製造記録を机に並べて確認する食品工場の担当者

沖縄県内で黒糖菓子や加工品をつくる工場を例にします。県外の卸から「○月○日製造分で異物の申し出があった。同じ原料を使った製品の範囲を教えてほしい」と連絡が来たとします。担当者はまず、包装に印字された賞味期限や製造日から、どの日に製造したものかを特定します。ここまではたいていすぐに済みます。

難しいのはその先です。その日に仕込んだ釜にどの袋の黒糖が入ったのか。その黒糖はいつ、どこから入荷したのか。同じ袋の黒糖がほかのどの製品に使われたのか。これに答えるには、製造日報・仕込み記録・入荷伝票・出荷控えを机に並べ、日付と品名を手がかりに、足りない部分を人の記憶で補うことになります。工場長が休みの日には、誰も答えられないこともありえます。

回収の範囲を絞れなければ、念のため広く回収するしかありません。判断に時間がかかれば、取引先の信頼にも響きます。トレーサビリティの目的は、何かあったときに「ここからここまで」と線を引けることです。その線を引くには、新しいシステムを入れる前に、いまある記録同士がどこで切れているかを知る必要があります。

入荷と仕込みのあいだ|伝票の番号が現場に届いていない

最初に糸が切れやすいのは入荷です。仕入れ先の納品書には原料のロット番号や製造日が書かれていることが多いのですが、受け取る側は数量と品名を確かめて伝票を事務所に回すだけ、という運用をよく見かけます。原料の袋や箱にロット番号が印字されていても、倉庫に入れた時点でその番号はどこにも書き写されていません。

次は仕込みです。製造記録に「黒糖 25kg」「もずく 10kg」と量は書いてあっても、どのロットの袋を開けたかまでは書かれていません。同じ原料を何回かに分けて入荷していると、先に入った袋と後から入った袋が棚で混ざり、どちらを使ったのか誰にも分からなくなります。離島や県外から届く原料で、台風による入荷のずれが重なる時期は、在庫がさらに入り組みます。

大事なのは、入荷時点の番号を工場側の「受入番号」に置き換えておくことです。仕入れ先ごとに番号の形式は違いますし、長い英数字を手で書き写すと間違えます。入荷した日付と連番で「1106-01」のような短い番号を振り、袋にマジックで書き、伝票にも同じ番号を書きます。これだけで、仕込み記録に書くものが受入番号という短い一語で済むようになります。

充填と出荷のあいだ|ひとつの仕込みが何に分かれたか見えない

仕込みから先は、逆向きの問題が起きます。1つの釜で炊いたものが、大袋と小袋に、あるいは自社ブランドと受託品の2種類に充填されます。前日の残りを翌日の仕込みに足すこともあります。製造日と賞味期限は製品ごとに印字されますが、どの釜の何回目から来たものかは、包装を見ても分かりません。

出荷では、同じ賞味期限の製品が複数の取引先に分かれて出ていきます。お土産の需要が増える時期は、県内の土産物店、空港の売店、県外のスーパーと、出荷先が一気に広がります。出荷控えに賞味期限まで書いていなければ、「その製品がどこへ何ケース行ったか」は配送伝票を1枚ずつめくって探すしかありません。

4か所の切れ目と、つなぐために最低限書き足すものを整理すると、次のようになります。

工程よくある記録切れる理由書き足すもの
入荷納品書(数量・品名)原料ロットが現場に伝わらない受入番号(日付+連番)を袋と伝票の両方に
仕込み製造日報(原料名と量)どの袋を開けたかが残らない使った受入番号
充填充填記録(製品名・個数)1つの仕込みが複数の製品に分かれる仕込みの釜番号と回数、印字した賞味期限
出荷配送伝票の控え製品ロットと出荷先が結びつかない出荷した製品の賞味期限(または製造ロット)

表のとおり、新しい帳票はほとんど増やさなくて済みます。いま書いている記録の欄に、前の工程の番号を1つ書き写すだけです。この「前の工程の番号を書く」が守られていれば、紙の記録をAIに読み取らせてつなぐことができます。

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紙の記録のまま始める|写真を撮ってAIにつないでもらう

手書きの製造記録をスマートフォンで撮影し、入荷から出荷までをつないだ追跡表にまとめるイメージ

最初の段階では、記録の様式は変えません。1日の終わりか週に1回、その期間の入荷伝票・製造日報・充填記録・出荷控えをスマートフォンで撮り、まとめてAIに読ませます。手書きの文字でも、数字と品名くらいであれば読み取れることが多くなっています。

AIに頼むのは、写真ごとに「日付・品名・数量・受入番号やロット番号・賞味期限」を抜き出して表にし、番号が一致するものを横につなぐことです。できあがるのは、1行に「入荷日・仕入れ先・受入番号→仕込み日・釜→充填した製品と賞味期限→出荷先とケース数」が並んだ追跡表です。問い合わせが来たら、この表を賞味期限か受入番号で絞り込めば、前後の工程が1枚で見えます。

この段階で必ず出てくるのが、番号が見つからない行です。仕込み記録に受入番号が書かれていない、字がかすれて読めない、といったものです。こうした行をAIに推測で埋めさせてはいけません。「つながらなかった行」として別に一覧にしてもらいます。その一覧を見ると、現場で書き足しが漏れやすい場所が分かります。最初の数週間は空欄が多くても構いません。空欄が減っていけば、現場の記録の仕方が変わってきたことが確かめられます。

撮った写真は原本の代わりにはなりません。紙の記録はこれまでどおり保管し、写真と追跡表は「探すための索引」として扱います。保健所の立入検査や取引先の監査で求められるのは、あくまで元の記録です。

表で管理する段階へ|書く場所を紙から表へ少しずつ移す

追跡表を何週間か回していると、AIが読み取った結果を人が直す手間のほうが気になってきます。そうなったら、記録の一部を最初から表に入力する段階へ進みます。いきなり全部を切り替える必要はありません。入力する人が限られていて、番号の書き間違いが起きやすい入荷から始めるのが現実的です。

たとえば、受入担当がタブレットで共有の表を開いて納品書を撮影すると、AIが品名や仕入れ先のロットを読み取って行を作り、受入番号を自動で振ります。担当者は中身を見て確定するだけです。仕込みの担当者は、その日に使う受入番号を選択肢から選びます。長い番号を手で書かなくてよくなるだけで、つながらない行はかなり減ります。

充填と出荷は、手が濡れていたりパートさんが交代で入ったりするので、紙のほうが速い場面も残ります。そこは紙の記録を続け、日報の写真から追跡表に取り込むやり方と併用して構いません。どこまで表に移すかは、工場の広さ、人の配置、取引先から求められる記録の水準によって変わります。自社に合う分け方を一緒に考えたい場合は、AIエージェントの導入支援のページも参考にしてください。

アレルゲンと賞味期限は、AIの読み取りに任せない

追跡表づくりでAIに任せてよいのは、記録を読み取って並べ、番号でつなぐところまでです。そのうえで、取り違えたときの影響が大きい項目ははっきり人の確認に回します。アレルゲンと賞味期限です。

アレルゲンは、原料の規格書や配合表、実際に使った原料、製品の表示の3つがそろっているかを人が照合します。AIは「小麦」「乳」という文字を読むことはできますが、仕入れ先が同じ品名のまま配合を変えた、代替品を使った、といった事情までは分かりません。ラインを切り替えるときの洗浄記録も同じで、記録が残っていることと、洗浄が正しく行われたことは別の話です。追跡表にアレルゲンの欄を設けるなら、そこは「確認した人の名前と日付」を書く欄にして、AIが埋める欄にはしないことをおすすめします。

賞味期限も同じです。手書きの「6」と「8」、「1」と「7」は読み間違えやすく、1文字違うだけで回収範囲が丸ごとずれます。印字機の設定値、充填記録の記載、実際の包装の印字が一致しているかは、充填の時点で人が見て確かめます。AIが読み取った賞味期限は検索用の値として使い、回収範囲を確定するときは原本と製品の現物で確認します。この線引きを先に決めておけば、AIの読み間違いがそのまま判断の誤りになることを防げます。

年に一度、模擬の問い合わせで表を試しておく

追跡表はふだん使わないので、いざというときに使えるかどうかは試してみないと分かりません。年に一度、あるいは取引先の監査の前に、架空の問い合わせを1件決めて、追跡表から回収範囲を出す練習をしておくと安心です。「○月○日に入荷したシークヮーサー果汁に問題があったら、どの製品がどこへ何ケース出たか」といった問いを立てます。

やってみると、表ではつながっているのに原本では番号が違っていた、出荷先の欄が略称でどの店か分からなかった、といった穴が見つかります。かかった時間と見つかった穴を書き残しておけば、次に直すところがはっきりします。表の扱い方を知っているのが担当者1人だけ、という状態もこの練習で見えてきます。島らっきょうの収穫期や年末の繁忙期の前など、現場に余裕のある時期を選んで実施するのが続けるこつです。

まとめ

食品工場のロット管理で追えなくなるのは、記録が足りないからではありません。入荷・仕込み・充填・出荷のあいだで番号が受け渡されていないからです。前の工程の番号を1つ書き足すところから始めれば、紙の記録を写真でAIに読ませて追跡表にまとめられます。慣れてきたら入荷から順に表での入力に移し、アレルゲンと賞味期限は人が照合する項目として最後まで分けておきます。この順番であれば、現場のやり方を大きく崩さずに進められます。

自社の記録のどこで糸が切れているかをまず一緒に整理したい場合は、お問い合わせからご相談ください。費用や進め方は工場の規模や記録の状態によって変わるため、内容を伺ってからご提案します。AI活用の全体像は沖縄の中小企業のAI活用の記事でもまとめています。