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一件ごとの見積作成に半日かかる工事会社へ|過去の見積からAIで原案を作る

結論から書く。工事の見積に半日かかるのは、書式を埋めるのが遅いからではない。「前にやった似たような工事は、どんな項目を立てて、どこで手間を食ったか」を思い出す時間が、その半日の大半を占めている。そして思い出すための材料――過去の見積書――は、すでに自社のパソコンの中にある。だから、似た案件を探して項目を並べ、原案の形にするところまではAIに任せられる。逆に、単価と最終的な金額だけは自社の表を見ながら人が入れる。この線引きさえ守れば、見積作成は「ゼロから思い出す作業」から「出てきた原案を直す作業」に変わる。

沖縄の工事会社では、社長や現場代理人が見積と現場を両方持っていることが多い。日中は現場に出て、夕方から事務所で見積を組む。急ぎの引き合いほど後回しにできないので、結局その日の後半が丸ごと消える。この記事では、過去の見積書を材料にした三つの手順と、金額そのものをAIに決めさせない理由、そして原案を人が直す前提で回すための社内の決めごとを順に書いていく。

半日の内訳は「書式」ではなく「思い出す時間」だ

見積作成の時間を分解してみると、実際にExcelに数字を打ち込んでいる時間は驚くほど短い。長いのはその手前だ。図面と現地写真を見ながら、これは何の工事に近いか、あのとき立てた項目は何だったか、たしか去年の同じような案件で足場の扱いを間違えて赤字になりかけた、といった記憶をたぐる時間である。この作業には終わりの目安がない。思い出せないと不安なので、過去のフォルダを開いて、似た名前のファイルを片っ端から開いていくことになる。

那覇市内のテナント内装を例にとると、電気の増設、空調の移設、床の張り替え、原状回復の条件、それに搬入経路と夜間作業の可否まで見積の前提が絡む。同じ「内装工事」でも、ビルの階数と搬入エレベーターの有無で人工が変わるし、繁忙期に職人が押さえられるかどうかで手配の前提も変わる。こうした「案件ごとの事情」は、頭の中にしか残っていないことが多い。だから毎回思い出しにいく。

ここでAIの使いどころを間違える会社が多い。「見積を作って」と丸ごと投げてしまうと、それらしい体裁の表は返ってくるが、単価も数量も根拠がない。使えないので結局作り直しになり、「AIは見積には向かない」という結論だけが残る。向いていないのは金額の決定であって、思い出す作業ではない。分けて考えたい。

材料はきれいなデータではなく、過去の見積書そのままでいい

この使い方の前提は、過去の見積書がある程度まとまって残っていることだけだ。整った積算データベースは要らない。ファイル名がばらばらでも、Excelとpdfが混ざっていても、作った人が何人かいても構わない。直近二、三年分の完了案件から、代表的なものを二十件から三十件ほど選んで一つのフォルダにまとめるところから始めればいい。全件を揃えようとすると準備だけで年が明けるので、まずは自社がよく受ける工事の種類ごとに数件ずつでいい。

選ぶときのコツは、「実際に受注して、最後まで大きく揉めなかった案件」を優先することだ。失注した見積や、途中で条件が大きく変わった案件は、項目の立て方としては参考になりにくい。逆に、あとから追加請求で苦労した案件は、抜けやすい項目を洗い出す材料として一件か二件は入れておくと役に立つ。

注意したいのは、見積書には取引先名、担当者名、現場の住所といった情報が載っている点だ。社外のサービスに渡すなら、宛名欄と現場住所を消してから使うか、そもそも社内で完結する環境を用意する。ここは扱う情報の中身によって判断が変わるところなので、迷ったら消す方に倒しておくのが無難だ。AIの導入で最初に決めるべきはこの取り扱いの線引きで、これは沖縄の中小企業でAIを業務に組み込むときにどの業種でも共通してつまずく部分でもある。

手順その一 似た案件を三件だけ探させる

過去の見積書の山から条件の近い三件を選び出すイメージ

最初の一手は、新しい引き合いに対して「過去のどの案件に近いか」をAIに探させることだ。ここで大事なのは、答えを一件に絞らせないこと、そして三件程度で止めることである。一件だけ出させると、その一件が外れだったときに気づけない。十件出させると結局全部読むことになって、思い出す作業を人がやっているのと変わらない。

投げ方はシンプルでいい。今回の案件について、工事種別、建物の用途と構造、おおよその規模、工期の希望、現場の場所、特殊な条件(既存設備を使い回すのか、営業しながらの工事か、離島か)を箇条で書いて渡し、「添付した過去の見積の中から、条件が近いものを三件挙げて、どこが近くてどこが違うかを一件ずつ説明して」と頼む。ポイントは「どこが違うか」を必ず言わせることだ。近い理由だけを聞くと、AIは無理にでも似ていると答えてしまう。

返ってきた三件は、人が三十秒眺めれば当たりかどうか分かる。外れていたら条件の書き方を足す。たとえば「RC造の三階建てで、二階のみの改修」「搬入は共用階段のみ」といった一行を加えるだけで結果が変わる。ここまでで、過去フォルダを延々と開いていた時間はほぼ消える。実際にはこの段階が、半日のうちで最も長かった部分だ。

手順その二 抜けやすい項目を、声に出させる

似た案件が三件そろったら、次はその三件の項目を突き合わせて、今回の原案に載せるべき項目を並べさせる。頼み方は「三件に共通して出ている項目」と「一件だけに出ている項目」を分けて出させること。共通して出ているものは今回もほぼ必要で、一件だけに出ているものは今回の条件しだい、という読み方ができる。

この二つ目のリストが、実は一番効く。仮設、養生、廃材処分、駐車場代、残業や夜間の割増、書類作成の手間、竣工写真、それに沖縄なら台風時期の養生や中断の扱い、離島案件の運搬と宿泊。こうした項目は、忙しいときほど落ちる。落ちても現場は進んでしまうので、気づくのは請求の段階で、そのときにはもう自社で被るか、言いにくい追加のお願いをするかの二択になっている。過去の見積を並べて「一件だけに出ている項目」を機械的に拾わせるだけで、この種の抜けはかなり減らせる。

ここでもAIに判断させない。「この項目は今回必要か」と聞けば、AIは平気で必要だと答えるし、不要だとも答える。必要かどうかを決めるのは現場を見た人間だ。AIの役割は、判断すべき項目を目の前に全部並べることであって、選ぶことではない。並べる、人が選ぶ。この順番を崩さないことが、この使い方の肝になる。

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手順その三 単価は自社の表から、人が入れる

空欄の単価欄に人が自社の単価表から数字を入れるイメージ

項目が固まったら、いよいよ数量と単価だが、ここは手を出させない。単価は自社の単価表、あるいは協力会社からの見積を根拠に、人が入れる。原案の単価欄は空欄のまま出させて、そこに人が埋めていく形が一番安全だ。空欄が並んでいれば、埋め忘れは見れば分かる。逆に、それらしい数字が最初から入っていると、忙しいときに検算せずそのまま出してしまう。

数量も同じで、図面から拾うのは人の仕事だ。ただし、拾った数量を渡して「この数量とこの項目の組み合わせでおかしいところはあるか」と聞くのは有効に使える。たとえば床面積に対して巾木の数量が明らかに合わない、電気の器具数に対して配線材が少ない、といった単純な不整合は指摘してくれる。人が見落としがちなのはこういう単純な桁と量の話なので、最後の読み合わせ相手として使うのはちょうどいい。

単価表そのものが社内に整っていない、という会社も少なくない。その場合は、この取り組みをきっかけに、よく使う三十項目ほどだけでも一枚の表にしておくといい。全項目を網羅する必要はない。よく出るものだけでも表になっていれば、原案に埋める作業が転記で済むようになり、担当者が代わっても金額の考え方がぶれにくくなる。

金額そのものをAIに決めさせない理由

理由は三つある。一つ目は、根拠が説明できなくなること。工事の見積は、出したあとに「この項目はなぜこの金額か」と聞かれる。自社の単価表から引いたのなら即答できるが、AIが出した数字だと答えられない。答えられない見積は、値引き交渉になったときに守れない。

二つ目は、材料費と労務費が動くこと。資材の価格も職人の手間賃も、時期と発注量で変わる。過去の見積に載っている単価は、その時点の数字だ。それを平均したり寄せたりした金額には、今の相場が反映されていない。AIは「もっともらしい数字」を作るのが得意なので、古い相場のまま自信ありげな金額が出てくる。これが一番危ない。

三つ目は、責任の所在だ。工事の金額は、赤字になれば自社が被る。誰が決めたのかがはっきりしない数字を社外に出す仕組みは、続けているうちに必ず事故を起こす。だから「AIが原案、人が金額」という分担を、担当者の心がけではなく手順として固定しておく。どこまでを機械に任せてどこからを人が持つかを最初に決めておくのは、業務にAIを組み込むときの共通した考え方でもある。

工程AIに任せる人が決める
似た案件を探す過去の見積から候補を三件挙げ、相違点を説明するその三件を今回の参考にするかどうか
項目を並べる共通項目と一件だけの項目を分けて列挙する今回の現場条件に照らして採否を決める
数量項目同士の量の不整合を指摘する図面から拾う。最終的な数量の確定
単価触らない(欄は空で出す)自社の単価表・協力会社の見積から入力
現場条件の割増過去に割増が付いた条件を思い出させる今回付けるかどうかと、その幅
提出誤字や項目の重複をチェックする総額の確認と、社外へ出す判断

原案を人が直す前提で回すための決めごと

仕組みとして続けるなら、社内でいくつか決めておきたいことがある。まず、AIが作ったものは必ず「原案」と分かる状態にしておくこと。ファイル名の頭に原案と付ける、原案用のシートを分ける、といった程度でいい。これを怠ると、原案のまま社外に出る事故がいつか起きる。とくに急ぎの引き合いで、担当者が現場から戻れない日が危ない。

次に、直した内容を残すこと。原案のどの項目を消して、何を足したかを一行でもメモしておくと、それがそのまま次回の材料になる。三か月も続ければ「うちはいつもこの項目が抜ける」「この条件のときは必ず割増を入れている」という自社の癖が見えてくる。癖が見えたら、それを最初の指示文に書き足す。指示文を育てていくこの作業が、実は導入後にいちばん効く部分だ。

そして、対象を欲張らないこと。最初は自社がよく受ける工事一種類に絞る。電気工事なら電気工事だけ、内装なら内装だけで一か月回してみて、原案の精度が上がってきたら次の種類に広げる。いきなり全種類でやると、材料になる過去見積の数がどれも足りず、どの種類も中途半端な原案しか出てこない。

最後に、期待値の置き方だ。原案が七割の出来なら十分に価値がある。残り三割を人が直す前提で、それでも思い出す時間が消えるぶんだけ早くなる、という受け止め方をしておく。十割を求めると、必ず金額まで任せたくなり、最初の線引きが崩れる。どこまでできるかは扱う工事の種類や過去資料の残り方によって変わるので、自社の場合はどうかを一度小さく試してから広げるのが現実的だ。

まとめ

見積に半日かかるのは、書式のせいではなく思い出す時間のせいだ。過去の見積書を材料に、似た案件を三件探させ、項目の抜けを並べさせる。そこまでが機械の仕事で、単価と数量、そして最終的な金額は自社の表を見ながら人が入れる。この三ステップと一つの線引きを守れば、机の前で過去のフォルダを開き続ける時間はかなり減らせる。

始めるのに必要なのは、新しいソフトでも整った積算データベースでもない。よく受ける工事の過去見積を二十件ほど一つのフォルダにまとめ、指示文を一つ用意するところからでいい。自社の見積のどこまでを任せられそうか、どの工事から試すのが現実的かを一緒に整理したい場合は、お問い合わせから現状をお聞かせいただければ、扱う情報の範囲も含めてご相談に応じます。