外国語メニューを翻訳AIで作る飲食店へ|注文で困らせる4つの失敗と直し方
翻訳AIで外国語メニューを作ること自体は、もう珍しいことではありません。日本語のメニューを貼り付けて「英語にして」と頼めば、数分で見た目の整った英語版ができます。ただ、そのまま店頭に置いたメニューが、注文の場面でお客さまを困らせていることがあります。先に結論を言うと、出来を左右するのは翻訳AIの精度よりも、AIに何を渡し、どう指示し、最後に人が何を確かめるかの決め方です。この記事では、飲食店で起きやすい失敗を4つに絞り、それぞれを「起きた場面→原因→AIへの指示の直し方→人が最後に確かめる点」の順に整理します。題材には、ゴーヤーチャンプルーやラフテーのような沖縄料理の名前を訳すのか、そのまま残すのかという、県内のお店ならではの悩みも取り上げます。
翻訳を頼む前に、メニューの「元データ」を一枚にまとめる

4つの失敗のほとんどは、AIに渡す日本語の段階で情報が足りないところから始まります。手書きのメニュー表や、黒板を撮った写真をそのまま読み込ませると、AIが拾えるのは料理名と値段くらいです。材料も調理法も分からないまま訳文を作ることになります。日本人のお客さまなら「チャンプルーは炒め物」と見当がつきますが、初めて沖縄に来た海外の方にはその前提がありません。
そこで最初に、料理ごとに「料理名・主な材料・調理法・味の特徴・注意が必要な食材・税込価格」を一行ずつ書き出した元データを作っておきます。表計算ソフトでもメモ帳でも構いません。この表を翻訳AIに渡す材料にし、同じ表を人が確かめるときのチェック表としても使います。翻訳のたびに日本語メニューを読ませ直すより、ずっと手戻りが減ります。4つの失敗の全体像は次のとおりです。
| 失敗 | 起きやすい場面 | 主な原因 | 人が最後に見る点 |
|---|---|---|---|
| 料理名の直訳 | 中身が想像できず、指差しで適当に頼まれる | 料理名だけをAIに渡している | 名前と説明がセットになっているか |
| アレルゲン・宗教上避ける食材の書き漏れ | 食べられない食材が入っていたと後で分かる | 出汁や調味料まで材料を書いていない | 元データの材料と表示が一致しているか |
| 税・サービス料の表記ゆれ | 会計で「メニューと金額が違う」と言われる | ページごとに書き方がばらばら | 全ページで同じ言い回しになっているか |
| 注文時の会話で通じない | お客さまの言う料理名をスタッフが聞き取れない | 店内での呼び方と訳名がずれている | 番号や写真で指させる作りか |
失敗1 料理名を直訳して、何の料理か伝わらない
起きた場面。たとえば国際通り近くの居酒屋で、英語メニューに「Inside Soup」と載っていたとします。中身汁を文字どおり訳した結果で、お客さまは何のスープか見当がつかず、注文は入りません。逆に、ゴーヤーチャンプルーを「Bitter gourd stir-fry」と訳しきってしまい、ガイドブックで名前を覚えてきたお客さまが「ゴーヤーチャンプルーはないの?」とスタッフに尋ねる、という行き違いもあります。
原因。料理名だけを渡すと、AIは文字どおりに訳すか、ローマ字で残すかを推測で決めます。料理ごとに判断がぶれるので、同じメニューの中に訳したものとローマ字のものが混ざります。「Goya」「Goyaa」「Gōyā」のように表記もそろいません。
AIへの指示の直し方。「訳すか、残すか」の線引きを人が先に決め、指示文に書きます。おすすめは、観光客が名前で探してくる沖縄料理の固有名は残し、後ろに材料と調理法の短い説明を添える形です。指示文の例は「沖縄料理の固有名は、指定したローマ字表記のまま残す。名前の後ろのかっこ内に、元データの主な材料と調理法を10語程度の英語で書く。例:Goya Champuru(stir-fried bitter melon with tofu, egg and pork)」です。ローマ字表記は料理ごとに一覧で指定しておくと、ページが増えても揺れません。中身汁のように固有名を残しても伝わりにくい料理は、「pork offal clear soup, an Okinawan home dish」のように説明を主役にする判断もあります。
人が最後に確かめる点。かっこ内の説明が元データの材料と食い違っていないかを見ます。AIは「よくあるゴーヤーチャンプルー」を思い浮かべて書くので、店でスパムを使っているのに「pork」とだけ書く、といったずれが起こります。料理写真と並べて読み、写真に写っているものが説明に入っているかも確かめてください。
失敗2 アレルゲンや宗教上避ける食材が書かれていない
起きた場面。ベジタリアンのお客さまが「野菜炒め」を頼んだら、仕上げにかつお節がかかっていた。ムスリムのお客さまに、泡盛で煮込んだラフテーや、豚骨でとったスープのソーキそばをすすめてしまった。どちらも、メニューの訳自体は間違っていません。書かれていなかっただけです。
原因。翻訳AIは、書かれていないことを補いません。日本語メニューにもともと出汁や調味料、下味、揚げ油の情報がなければ、訳文にも出てきません。ジーマーミ豆腐のように、名前に「豆腐」と入っていても大豆ではなく落花生とでん粉で作る料理は、名前から推測すると誤解が生まれます。
AIへの指示の直し方。元データに「注意食材」の列を作り、厨房の担当者に、出汁・調味料・酒類まで含めて記入してもらいます。そのうえで「各料理の説明の末尾に、元データの注意食材欄にある食材だけを列挙する。欄にない食材を推測で足したり、省いたりしない」と指示します。AIに「この料理に含まれそうなアレルゲンを考えて」と頼むのは避けましょう。もっともらしい推測が混ざり、かえって危険です。また、ハラール認証を受けていない料理に「Halal」と書かせてはいけません。「contains pork」「contains alcohol(awamori)」のように、事実だけを並べる書き方にとどめます。
人が最後に確かめる点。表示した注意食材と元データが一致しているかを、厨房の担当者が一品ずつ見ます。仕入れ先やレシピが変わったときに外国語メニューの更新を忘れがちなので、日本語メニューと同じタイミングで直す決まりにしておくと安心です。表示が求められる原材料の範囲は見直されることがあるため、消費者庁などの最新の公的情報で確かめてください。
失敗3 税込・税抜やサービス料の書き方がページごとに違う

起きた場面。ランチのページは税込、夜のドリンクのページは税抜で書かれていて、さらにお通し代の説明がどこにもない。会計のときに、お客さまはメニューの数字を足した額との差が分からず、スタッフも英語でうまく説明できない。観光客の多いお店ほど、こうした場面に覚えがあるのではないでしょうか。
原因。ひとつは、日本語メニューそのものの不統一を、AIがそのまま訳していることです。もうひとつは、ページごとに別々に翻訳を頼んでいることです。AIは頼まれるたびに「tax included」「incl. tax」「tax-in」と違う言い回しを選ぶので、一冊のメニューの中で書き方がばらつきます。お通しのように海外にあまりない習慣は、説明がなければ「勝手に請求された」と受け取られかねません。
AIへの指示の直し方。表記のルールを先に決め、毎回の指示文の冒頭に入れます。たとえば「価格はすべて税込で、表記は『¥数字 (tax included)』に統一する。お通しは table charge として、メニュー1ページ目に一文で説明する。サービス料がある場合は、その旨をすべてのページの下に同じ文で書く」といった具合です。可能であれば、全ページを一度にまとめて翻訳させると言い回しがそろいます。
人が最後に確かめる点。数字はAIに作らせず、元データの金額をそのまま使わせます。そのうえで、訳文の数字を元データとレジの設定の両方と照らし合わせます。桁の打ち間違いやカンマの位置のずれは、翻訳の良しあしとは関係なく起こるので、最後は人の目で一行ずつ見るのが確実です。
失敗4 メニューは読めても、注文の会話で通じない
起きた場面。お客さまが「Goya Champuru, please」と声をかけても、ホールのスタッフが「ゴーヤー」と結びつけられず聞き返してしまう。ご飯を付けるか、量はどうするかといった追加の確認を英語でできず、お客さまの希望と違うものが出てしまう。メニューは丁寧に訳されているのに、注文のやりとりでつまずく例です。
原因。メニューを翻訳しただけで、注文の流れ全体を考えていないことです。お客さまが口にする訳名と店内で使う呼び方がずれていますし、オプションや確認事項がメニューに書かれていません。
AIへの指示の直し方。料理に番号を振り、写真を添えて、言葉に頼らず指させる作りにします。そのうえで翻訳AIに「注文時にスタッフが指差しで使う確認シートを作って。項目は、ご飯を付けるか、量、辛さ、飲み物のタイミング。答えは選択肢で示す。英語・中国語(繁体字と簡体字)・韓国語で」と頼むと、カウンターに置ける一枚ができます。あわせて、外国語の料理名にカタカナの読みを並べたスタッフ向けの対応表も作っておくと、聞き取りの不安が減ります。
人が最後に確かめる点。実際にスタッフ同士でお客さま役と店員役を演じ、確認シートで注文が最後まで通るか試してください。中国語は、台湾・香港からのお客さまには繁体字、中国本土からのお客さまには簡体字がなじむので、来店の多い地域に合わせます。外国語が得意な知人や、外国出身のスタッフに一度目を通してもらえると、なお安心です。
同じ失敗を繰り返さないための、店内での回し方
4つの失敗の直し方には共通点があります。正本になる元データを一つ持つこと、AIへの指示文を毎回同じものにすること、そして人が確かめる担当と項目を決めておくことです。季節のメニューを足すたびに一から頼み方を考えていると、前回のルールが抜け落ちます。うまくいった指示文はそのまま保存し、新しい料理を元データに足したら、同じ指示文で該当部分だけ訳し直す流れにしておくと、ばらつきが出にくくなります。
この「元データを更新したら、決まった指示で訳し、確認表を出す」という一連の作業は、AIエージェントで定型化することもできます。仕組みの考え方はAIエージェントの導入支援のページで紹介しています。沖縄の中小企業がAIを業務にどう取り入れていくかは、沖縄の企業のAI活用についてまとめた記事も参考にしてください。どこまでをAIに任せ、どこからを人が見るかの線引きは、お店の規模やメニューの数によって変わります。
まとめ 訳文の出来は、渡す材料と最後の確認で決まる
翻訳AIを使えば、外国語メニューは短い時間で形になります。ただ、料理名の直訳、注意食材の書き漏れ、税やサービス料の表記ゆれ、注文の会話のすれ違いは、AIの性能だけでは防げません。料理ごとの元データを整え、ゴーヤーチャンプルーのような固有名を訳すか残すかを先に決め、注意食材は書いてあるものだけを載せさせ、金額は人が照らし合わせる。この順番を守るだけで、お客さまが迷う場面はかなり減らせます。
自分のお店のメニューでどこから手をつけるか迷う場合や、更新作業まで含めて仕組みにしたい場合は、お問い合わせからご相談ください。進め方や費用はお店の状況によって変わるため、内容を伺ったうえでご提案します。