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取引先から届いた契約書の確認に半日|AIに下読みさせる手順と任せない範囲

取引先から契約書のPDFが届いて、目を通しはじめたら気づけば午後が終わっていた。こういう半日は、たいてい「読むのが遅い」から生まれているのではありません。どこを見るべきかを毎回ゼロから探しているから時間が溶けるのです。逆に言えば、条項の洗い出しと論点の一覧化という「下読み」の部分はAIにかなり任せられます。ただし任せられるのはそこまでで、この条件を飲むかどうかの判断と、法的な結論を出す仕事は人が持ち続けるのが前提になります。この記事では、契約書1通が届いてから返答するまでを工程に割り、それぞれを「AIに下読みさせる/自社で判断する/専門家に渡す」の三つに線引きします。最後に、社内で守る取り扱いルールを1枚にまとめます。

半日かかっていた原因は「読む速さ」ではない

届いた契約書の束と時計を並べ、確認作業に時間がかかっている様子を表したイラスト

沖縄の中小企業でよくある場面を思い出してみてください。県外の元請けから業務委託契約書がメールで届く。担当は総務を兼任している事務の方か、社長自身。前回似た契約を結んだのは八ヶ月前で、そのときどこを直してもらったのか記憶が薄い。まずPDFを開いて頭から読み、途中で「そういえば前回は損害賠償のところを直した気がする」と思い出し、古いメールを検索しはじめる。ここで三十分。さらに「再委託」の扱いが気になって過去の契約書フォルダを漁り、比べているうちに昼になる。

つまり半日の中身は、読解ではなく探索と再確認です。条項が何本あってどんな種類が並んでいるのか、自社にとって不利になりうる箇所はどこか、前回と違うのはどこか。この整理は、材料が目の前に揃っていれば機械的にできる作業です。人がやると遅いのは、記憶に頼るからで、能力の問題ではありません。

だからAIの使いどころは「代わりに判断させる」ではなく「判断に必要な材料を三十分で机の上に並べさせる」ところにあります。並んだ材料を見て、飲むか押し戻すか、専門家に相談するかを決めるのは人の仕事です。この分担をはっきりさせないまま使うと、AIが出した要約をそのまま結論として扱ってしまい、かえって危ない使い方になります。

工程表:1通が届いてから返答するまでを七つに割る

まず全体の見取り図です。契約書が届いてから返答までを七工程に割り、それぞれ誰が持つかを決めました。ここが決まっていれば、次に契約書が届いたときは「工程1から順にやる」だけになります。

工程やることAIに下読みさせる自社で判断する専門家に渡す
1受領と種類の見立て(何の契約か・急ぎか)種類と全体像の当たりをつける期限と社内の担当を決める
2条項の棚卸し(何条まで・どんな種類が並ぶか)◎ ここが主戦場抜けの確認
3自社に不利になりうる箇所の洗い出し◎ 候補を全部挙げさせる候補の絞り込み
4前回・雛形との差分照合◎ 表現の違いまで拾う差が許容範囲かの線引き
5飲む/押し戻す/条件付きで受けるの決定◎ ここは渡さない迷う論点だけ相談
6法的な結論・条文の書き換え方針の伝達◎ 弁護士・司法書士等
7返答文の作成と社内記録下書きの叩き台◎ 最終の言い回し

見てのとおり、AIが強いのは工程2から4に集まっています。逆に工程5と6は一切渡していません。この形にした理由を、以下で工程ごとにほどいていきます。

工程1〜2:受領直後の三十分で「地図」を作る

届いたPDFを開いたら、いきなり読み始めないのがコツです。まず何の契約で、いつまでに返さないといけないのかを確定させる。相手のメールに「今週中に」と書いてあるのか、それとも押印して郵送までを含めた期限なのか。ここが曖昧なまま作業に入ると、途中で「あれ、いつまでだった」と気になって集中が切れます。

そのうえで工程2、条項の棚卸しに入ります。ここでAIに投げるのは、要約ではなく一覧化です。全部で何条あり、どんな見出しが並び、目的・期間・報酬・秘密保持・知的財産・再委託・損害賠償・解除・反社条項・管轄といった定番のどれが入っていてどれが入っていないか。この「入っていない」を拾えるのが大きい。中小企業の現場でトラブルになりやすいのは、書いてある条文の解釈より、書かれていないことをどちらの責任にするかで揉めるパターンです。契約期間の自動更新について何も書かれていない、成果物の検収の手順が定義されていない、といった空白は、一覧にしてみないと見落とします。

この工程で三十分から一時間。ここまでで「何が論点になりうるか」の地図ができます。手を動かしているのはAIですが、指示の出し方は人が握っている状態です。

工程3:不利になりうる箇所は「多めに挙げさせる」

次が本題の洗い出しです。ここでのコツは、絞らせないこと。「重要な問題点を三つ教えて」と頼むと、AIは無理に順位をつけて他を落とします。落ちたものの中に、自社の事情では大きい論点が混ざっていることがあります。

たとえば那覇のデザイン制作会社が県外企業と結ぶ委託契約で、成果物の著作権を全部相手に譲渡する条項が入っていたとします。一般論としてはよくある形で、AIも「標準的」と評価しがちです。しかし自社が「制作事例としてサイトに載せられるか」を営業の柱にしているなら、これは重い論点になります。逆に、AIが警告しがちな損害賠償の上限規定が、取引の規模から見てそこまで気にしなくてよい場面もある。重みづけは自社の事情でしか決まらないので、AIには候補を広く挙げてもらい、順位は人がつけます。

もう一つ、この工程では「なぜそう思うのか」を必ず出させます。条文のどの文言を根拠にそう読んだのかが書かれていれば、人が原文に戻って確かめられます。根拠なしの指摘は、確認のしようがないので使えません。AIの読み間違いはゼロにはならないので、検算できる形で出させることが実務上の安全装置になります。

工程4:前回との差分照合が、いちばん効く

前回の契約書と今回の契約書を並べて変更箇所を照合しているイメージ図

同じ取引先と何度か契約を結んでいる会社なら、この工程がもっとも時短につながります。前回の契約書と今回のものを並べて、変わった箇所を全部挙げてもらう。人がやると見落とすのは、条番号がずれているせいで対応関係が崩れているところ、それに「速やかに」が「直ちに」に変わっているような一語の差です。後者は意味が動くことがあるのに、目で追うと通り過ぎます。

差分が出てきたら、人が線を引きます。文言の整理にすぎない変更なのか、負担の配分が動いている変更なのか。ここは自社で判断する列です。判断がつかない差分だけを工程6に回せば、専門家に相談する量が「契約書1通ぜんぶ」から「気になる二、三箇所」に縮みます。相談の中身が絞れているほど、話は早く進みます。

自社の雛形を持っている場合は、雛形との差分も同じやり方で取れます。相手方の書式で進める案件では、これをやっておくと「うちは普段こう書いている」という材料を持って交渉に入れます。

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工程5〜6:ここから先はAIに渡さない

工程4まででテーブルの上には材料が揃っています。ここから先が渡さない領域です。

工程5の「飲む/押し戻す/条件付きで受ける」は、契約書の中身だけでは決まりません。その取引先との今後の関係、いま自社の受注状況がどうか、押し戻したときに案件が流れるリスクをどう見るか。こうした社外の文脈は契約書に書かれていないので、AIは知りようがありません。にもかかわらず、聞けばそれらしい助言を返してきます。知らないことについても文章が出てくるのが厄介なところで、経営判断をここに預けるのは筋が違います。

工程6はもっとはっきりしています。特定の契約についての法的な結論を出すこと、条文を書き換えて相手に提示することは、弁護士など資格を持つ専門家の領域です。AIの出力を根拠に「この条項は無効です」と相手に伝えるような使い方はしない、と社内で決めておく。金額の見積もりや自社に有利かどうかの最終評価も同じで、案件の内容によって答えが変わるので断定しない姿勢が要ります。判断に迷ったら止めて相談する。この一線を守っている限り、下読みの効率化はほぼ安全に取れます。

工程7の返答文は、下書きの叩き台までをAIに作らせても構いません。ただし相手に出る文章なので、最終の言い回しは必ず人が直します。契約交渉の文面は、意図と違うニュアンスが混じると後で効いてきます。

そもそも投げてよい契約書なのか、を最初に決める

工程の話をひととおりしましたが、実際に導入するとき最初に詰めるべきはここです。契約書には取引先の名前、金額、取引条件、担当者名が並んでいます。これを外部のサービスに読み込ませてよいのか。

判断の分かれ目は二つあります。一つは、その契約書に秘密保持の取り決めがあり、第三者への開示が制限されているかどうか。AIサービスへの入力が開示に当たるかは契約の書き方次第なので、秘密保持条項がある案件は投げる前に確認するのが順序です。もう一つは、使うサービスが入力内容を学習に使わない設定になっているかどうか。同じ名前のサービスでも、無料版と法人向けで扱いが違うことがあります。

現実的な落としどころとしては、まず社名と担当者名、金額を伏せた状態で条項の構造だけを見てもらう方法があります。契約の骨格を確認するだけなら、固有名詞は要りません。「甲」「乙」のままで十分読めますし、金額を「◯◯円」に置き換えても条項の妥当性の議論はできます。この一手間を入れるだけで、投げてよい範囲がかなり広がります。県内でも情報の取り扱いに厳しい取引先は増えているので、先に線を引いてから使い始めるほうが結局早いです。

どのサービスをどう設定して使うか、どこまでを社内で回してどこから専門家に渡すか。この設計を自社の事情に合わせて組むところは、AI導入の相談として一緒に整理できます。

社内で守る取り扱いルール(1枚)

最後に、ここまでの内容を社内に貼れる形にまとめます。細かくしすぎると読まれないので、守れる数に絞りました。

一、投げる前に伏せる。取引先名、担当者名、金額、住所は置き換えてから読み込ませる。条項の構造を見るだけなら固有名詞は不要。

二、秘密保持の縛りがある契約書は、投げる前に確認する。判断がつかなければ止めて、上長か専門家に聞く。迷ったまま進めない。

三、AIに出させるのは候補と根拠まで。「重要な三点」ではなく「気になる箇所を全部と、その根拠になる文言」を出させる。順位づけは人がやる。

四、根拠のない指摘は採用しない。条文のどこを読んでそう言っているのかが示されていない指摘は、原文で確かめられないので使わない。

五、飲むか押し戻すかは人が決める。取引先との関係や受注状況を含む判断はAIに聞かない。聞けば答えは返ってくるが、材料を持っていない相手の答えである。

六、法的な結論と条文の書き換えは専門家に渡す。AIの出力を根拠に相手方へ法的な主張をしない。

七、相手に出る文章は人が最終確認する。返答メールも修正依頼の文面も、送信前に必ず目で通す。

八、使った記録を残す。どの契約書をどう伏せて、どのサービスに投げ、何が出てきたか。案件フォルダに一行でも書いておけば、次に似た契約が来たときの材料になり、社内で使い方を共有するときの土台にもなる。

この八つを紙一枚にして総務の壁に貼っておく。それだけで「担当者ごとに使い方が違う」状態は避けられます。

まとめ:下読みを渡して、判断を手元に残す

契約書の確認に半日かかっていたのは、条項を洗い出して論点を並べる作業を毎回手作業でやり直していたからです。ここはAIに渡せます。工程2の棚卸し、工程3の洗い出し、工程4の差分照合。この三つを先に片づけてしまえば、人が向き合うのは「どう返すか」だけになります。

一方で、飲むか押し戻すかの判断と、法的な結論を出す仕事は渡しません。前者は契約書に書かれていない社内の事情で決まるからで、後者は資格を持つ人の領域だからです。この線を引かずに「AIで契約書チェック」と言い出すと、便利な下読みが危ない代行に変わります。線を引いたうえで使えば、半日が一時間半くらいまで縮む余地は十分にあります。

まずは次に届く1通で、工程2と工程4だけ試してみるのが現実的です。棚卸しと差分照合は成果がはっきり見えるので、社内で「これは使える」という合意が取りやすい。そこから工程3に広げていけば、無理なく定着します。自社の契約の型に合わせた進め方や、取り扱いルールの詰め方でつまずいたときは、お問い合わせからご相談ください。内容によってご案内できる範囲は変わりますが、どこから手をつけるかの整理はお手伝いできます。