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海外取引先とのメールに翻訳AIを使う前に|貿易事務が試す4つの確認

ツール

海外の取引先とのメールに翻訳AIを使うなら、評判のよいツールを探す前に、自社が実際に送ったメールで「試し訳」をしてみることをおすすめします。数量・納期・支払条件・お詫びの4種類の例文を複数の翻訳AIに通し、できた英文をもう一度日本語に戻して元の文と見比べます。これだけで、自社の取引に合う翻訳AIがどれか、使うときに人が必ず確かめるべき箇所はどこかが、かなり具体的に分かってきます。

沖縄の中小企業にも、台湾や香港、東南アジアの商社と黒糖や泡盛、加工食品を取引している会社は少なくありません。貿易事務の担当者が一人で英文メールを抱え、辞書と過去のメールを見比べながら返信を書いている、という話もよく聞きます。この記事では、その担当者が半日ほどで回せる試し訳テストの進め方を説明します。あわせて、4つの確認項目ごとの合格の目安と誤訳しやすい例、翻訳AIに入力してよい情報の線引きも順に整理します。沖縄の会社でのAI活用の全体像は沖縄の中小企業のAI活用についてまとめた記事でも紹介しています。

評判やランキングを見ても、自社のメールに合うかは分からない

自社の過去メールを翻訳AIで訳し、逆翻訳して照らし合わせる試し訳のイメージ

翻訳AIの比較記事はたくさんありますが、使われている例文はニュース記事や一般的なビジネス文書がほとんどです。一方、貿易事務のメールでは「CIF基隆」「20フィートコンテナ1本」「B/Lコピー受領後に残金送金」のように、業界の略語と数字と条件が一文に詰め込まれます。普通の文章はなめらかに訳せるツールでも、こうした文になると単位を落としたり、条件の主語を入れ替えたりすることがあります。

もう一つの理由は、取引先ごとの言い回しの癖です。長く付き合っている台湾の商社とは短い英語でやり取りしている、香港の担当者は丁寧な決まり文句を好む、といった具合に、相手との関係の中で積み上がった表現があります。これは外部の評価では測れません。だからこそ、比べるときの基準は自社の過去メールに置くのが近道です。比べるツールは2〜3種類で十分です。無料版と有料版、対話型のAIと翻訳専用のツールのように、性格の違うものを並べると差が見えやすくなります。

試し訳テストの準備:過去メールから4つの例文を抜き出す

まず、送信済みフォルダから例文を選びます。選ぶのは、数量を伝えたメール、納期を約束または変更したメール、支払条件を決めたメール、トラブルでお詫びをしたメールの4種類です。それぞれ2〜3文くらいの段落を切り出します。実際に相手と誤解が生じたことのある文があれば、それを優先してください。過去に「数量が違う」と問い合わせが来た文は、テストの材料として特に役立ちます。

切り出した例文は、翻訳AIに入れる前に固有の情報を置き換えます。取引先名は「A社」、担当者名は「Mr. X」、単価は「XX円」のように差し替えます。数量や日付は誤訳の確認に使うので、桁数や書き方はそのままにして架空の数字に変えます。たとえば実際は「480ケース」だったものを「360ケース」にしても、テストの目的は果たせます。この置き換えの考え方は、記事の最後で触れる「入力してよい情報の線引き」と同じです。

進め方はシンプルです。日本語の例文を翻訳AIで英語にし、その英文を別のツール、または新しい会話で日本語に戻します。同じ会話の中で戻すと、AIが自分の訳を覚えていて元の文に寄せた答えを返すことがあり、逆翻訳で確かめる意味が薄れます。戻ってきた日本語を元の文と並べ、数字・日付・条件・語気がどう変わったかを書き留めていきます。英語を読める社員がいれば、英文そのものも一緒に見てもらうとさらに確実です。

確認1 数量と単位:桁・入数・重量の基準が残っているか

数量の文では、数字が正しく移っているかに加えて、その数字が何を数えているかも確かめます。「1ケース24本入りを50ケース」という文が「24 cases of 50 bottles」のように入れ替わることがあり、文が長くなるほど起こりやすくなります。ほかにも「約1,000kg」の「約」が消える、正味重量と総重量の区別がなくなる、「トン」が国によって意味の違う単位として訳される、といったずれがあります。

合格の目安は、逆翻訳した日本語で「何を・いくつ・どの単位で」が元の文と同じ意味で戻ってくることです。英文の側で「net weight」「gross weight」「metric ton」のように基準がはっきり書かれていれば、さらに安心です。食品の輸出ではケース数、パレット数、本数が一通のメールに混ざることがよくあります。例文にもわざと複数の単位を入れておくと、ツールごとの差がはっきり出ます。

確認2 納期と日付:「いつ」が二通りに読めないか

納期の文で起こりやすいのは、日付の書き方の問題と、どの時点を指すかの取り違えです。「11/3出荷」を英文でも「11/3」のまま書くと、日を先に書く地域では3月11日と読まれるおそれがあります。合格の目安は、英文で月が「November 3」のように文字で書かれていることです。また、日本語の「納期」は、出港日なのか、到着日なのか、先方の倉庫に入る日なのかを文脈で判断させていることが多く、翻訳AIはこれを「delivery date」とひとまとめに訳しがちです。

「来週中に」「月末までに」「旧正月明けに」のように幅のある表現にも注意が必要です。訳としては正しくても、相手の国の暦や祝日と重なると、思っている日がずれることがあります。試し訳では逆翻訳の結果に加えて、英文にETD(出港予定日)やETA(到着予定日)の区別が入っているかも見ます。入っていなければ、元の日本語をどう直せば入るかを試しておきましょう。その結果は、そのまま社内の書き方ルールとして使えます。

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確認3 支払条件:貿易の決まった言い方で訳されているか

支払条件は、誤訳がそのまま入金トラブルにつながる部分です。たとえば「前金30%、残金は船積み書類のコピーを受け取ってから7日以内」という文を逆翻訳すると、「30%を先に、残りは発送の7日後」に変わっていることがあります。試し訳でよく見つかるずれです。書類の受け取りと発送では数え始める日が違うので、入金予定日がまるごと変わってしまいます。

合格の目安は、T/T(電信送金)、L/C(信用状)、B/L(船荷証券)、bank charges(送金手数料)といった貿易の決まった用語が正しく使われ、いつから数えるか・期限・誰が負担するかが逆翻訳でも崩れないことです。国内取引の感覚で書いた「月末締め翌月末払い」は、翻訳AIがそのまま訳すと意味の通りにくい英文になりやすい表現の代表です。こうした文は、日本語の段階で「請求書の日付が属する月の翌月末日までに支払う」のように主語と起点を補っておくと、どのツールでも安定して訳されます。つまり試し訳は、ツール選びであると同時に、自社の日本語の書き癖を見つける作業でもあります。

確認4 お詫び:謝り方の強さと責任の範囲がずれていないか

4つ目はお詫びのメールです。日本語の「大変申し訳ございません」「ご迷惑をおかけしました」は、相手との関係を保つための丁寧な言葉として使うことが多い表現です。ところが英語で強く訳されると、こちらの過失をすべて認めた文として読まれる場合があります。反対に「善処いたします」「確認のうえ対応いたします」はあいまいに訳され、何もしないつもりだと受け取られることもあります。

合格の目安は、逆翻訳した日本語で「何について謝っているのか」と「次に何をするのか」が元の文と同じ範囲に収まっていることです。出荷の遅れを詫びた文が品質の問題まで認める文に広がっていないか、補償を約束するような表現が勝手に加わっていないかを確かめます。お詫びの文はツールによる訳の差が最も大きく出る項目です。ここだけは翻訳AIの訳を下書きとして扱い、送る前に必ず責任者が確認する運用にしておくと安心です。

4つの確認を1つの表にまとめる

数量・納期・支払条件・お詫びの4項目を確認するチェックリストのイメージ

ここまでの内容を、試し訳テストの記録用紙として使える形にまとめました。ツールごとにこの表をコピーし、例文ごとに○か△を付けていくと、比べた結果がひと目で分かります。

確認項目例文の例誤訳しやすい点合格の目安
数量と単位1ケース24本入りを50ケース、総重量約1,000kg入数とケース数の入れ替わり、「約」の脱落、正味と総重量の混同逆翻訳で「何を・いくつ・どの単位で」が同じ意味で戻る
納期と日付11/3に那覇港から出荷、月末までに到着予定日付の月日の取り違え、出港日と到着日の区別がなくなる月が文字で書かれ、どの時点の日付か区別されている
支払条件前金30%、残金は書類コピーを受け取ってから7日以内数え始める日のずれ、手数料の負担者が抜ける貿易用語が正しく、起点・期限・負担者が崩れない
お詫び出荷遅延についてのお詫びと今後の対応謝罪が強すぎて責任を広く認める、対応内容があいまいになる謝る範囲と次の対応が元の文と同じ範囲に収まる

表を埋め終わったら、すべての項目に○が付くツールを探すより、△が付いた項目を「人が必ず確認する箇所」と決めるほうが実務に合っています。どのツールにも苦手はあります。苦手を知ったうえで使えば、翻訳AIは下書きを早く作る道具として十分に役立ちます。翻訳に限らず、「AIが下書きを作り、人が大事な所を確かめる」という仕事の組み立て方は、AIエージェントを使った業務支援のページでも紹介しています。

翻訳AIに入力してよい情報、控えたほうがよい情報

試し訳テストで例文を置き換えたのと同じ考え方を、ふだんの運用にも使います。基本は、文の意味が変わらない範囲で、取引先や個人が分かる情報と金額に関わる情報を外してから入力することです。取引先名、担当者の名前やメールアドレス、電話番号、銀行口座、単価や値引き率、契約書の条文の全文などは、そのまま貼り付けないほうが無難です。

一方、数量や日付の書き方、支払条件の組み立て、お詫びの文の骨組みは、置き換えても翻訳の確認に困りません。「A社にXX円で360ケース」のような形にしてから訳し、英文ができたあとで実際の値に戻す、という手順を担当者の間で揃えておくとよいでしょう。また、入力した内容がAIの学習に使われるかどうかや、会社として契約できるプランがあるかは、ツールや契約の形によって違います。利用規約と設定画面を確認し、社内で「このツールをこの設定で使うならよい」と決めてから使い始めることをおすすめします。

この線引きは、一度決めたら終わりではありません。新しい取引先や商品が増えるたびに例文を足して試し訳をやり直すと、ルールが現場の実際から離れにくくなります。

まとめ

翻訳AIを選ぶときの基準は、評判ではなく自社の過去メールです。数量・納期・支払条件・お詫びの4つの例文を複数のツールで訳し、別のツールで日本語に戻して見比べると、どのツールがどこでつまずくのか、自社の日本語のどこがあいまいなのかが具体的に分かります。△が付いた項目は人が確認する箇所として決め、入力してよい情報の線引きとあわせて社内で共有しておけば、貿易事務の担当者が一人で抱えていた英文メールの負担は少しずつ軽くなっていきます。

自社のメールを使った試し訳の進め方や、翻訳を含む事務作業にAIをどう取り入れるかを相談したい場合は、お問い合わせからお気軽にご連絡ください。内容をうかがったうえで、進め方を一緒に考えます。