停電・断水で止まる仕事をどう決める?|AIでBCPのたたき台を1日でつくる
停電や断水で会社が止まったとき、本当に厄介なのは電気や水が来ないことそのものではありません。「今、何を先にやるのか」を誰も決められない時間が生まれることです。社長は電話対応に追われ、社員は自宅で指示を待ち、顧客からの問い合わせだけが積み上がっていく。あの数時間を消すのがBCP(事業継続計画)の役目です。
結論から書きます。最初の一枚に必要なのは、①止まると困る仕事を3つ挙げる ②それを誰がどう代わりに回すか ③連絡と再開の順番、この3つだけです。そしてこの3つは、生成AIに順番に問いを投げていけば、半日から1日でたたき台の形になります。ただしAIが出した原案には、そのまま社内に配ると危ない箇所が必ず混じります。この記事では、各ステップで実際に投げる指示文と、出てきた原案のどこを人が書き直すのかを具体的に示します。
台風の翌朝に起きているのは、災害そのものより「判断の渋滞」
沖縄で仕事をしていれば、停電は珍しい出来事ではありません。強い台風が抜けたあと、地域によっては復旧まで半日、長ければ数日かかることもあります。やっかいなのは、停電がそのまま断水に化けることです。貯水槽から各階へ水を押し上げるポンプは電気で動いているので、水道管が無事でも蛇口から水が出なくなる。トイレが使えない、手が洗えないという理由だけで、飲食店も美容室も介護事業所も営業判断を迫られます。
そこで何が起きるか。社員は「出社していいのか」を聞きたくて社長に電話する。顧客は「今日の納品は」と聞いてくる。取引先からは資材が遅れる連絡が入る。判断できる人が一人しかいないので、全部がその一人のところで詰まります。あとから振り返ると、判断そのものは難しくなかった、というケースがほとんどです。難しかったのは、決まっていなかったことを停電の中で決めなければならなかったこと。BCPというと分厚い冊子を想像しますが、実際に効くのは「先に決めて、紙で持っておいた」という事実のほうです。
白紙から「BCPを作って」と頼むと、なぜ使えないものが出てくるのか
AIに「中小企業向けのBCPを作ってください」と投げると、想定リスクの一覧、対策本部の体制図、訓練計画まで揃った立派な文書が出てきます。読むと正しいことしか書いていない。けれども、自社の話が一行も入っていません。担当者名は空欄、優先する業務は一般論、連絡手段は「緊急連絡網による」。これでは検索で出てくるひな形と変わらず、印刷しても引き出しにしまわれて終わります。
AIが本当に役に立つのは、文章を代わりに書く場面ではなく、頭の中にあるだけで言葉になっていない自社の事情を、質問で引きずり出してくる相手役としてです。だから最初から完成品を頼まないこと。作業を3つの問いに割って、一つずつ答えさせる。しかも各ステップで、こちらが自社の情報を足していく。この往復があるかないかで、出てくる原案の質がまるで変わります。AIを業務にどう組み込むかという考え方そのものは、AIエージェント導入の考え方でも触れているとおり、任せる範囲を先に切るのがコツです。
ひとつ目の問い:止まって本当に困る仕事を、3つまで絞る

最初に投げる指示文は、こんな形です。「当社は沖縄県内で〇〇業を営む従業員△名の会社です。台風による停電が2日続き、断水も起きた状況を想定します。当社の業務のうち、止まると1日以内に顧客や取引先に実害が出る仕事の候補を挙げてください。それぞれ、どんな実害が出るのか、何時間止まると問題になるのかを添えてください。そのうえで、優先度が高いと考えられる3つと、その根拠を示してください。」
業種と人数を書くだけで、出てくる候補はぐっと具体的になります。受注の受付、請求と入金の確認、顧客からの問い合わせ対応、シフトの連絡——このあたりは自動的に並びます。ただし、ここでAIが付けた優先順位はそのまま使いません。順位は季節と締め日と契約内容で動くからです。月末に停電すれば請求業務が最優先になりますが、月初なら現場の納期のほうが先に来る。観光関連なら繁忙期かどうかで答えが変わります。AIには候補を広く出させ、絞るのは人がやる、という分担にしてください。
もうひとつ、AIが絶対に知らない領域があります。冷蔵・冷凍している商品、水槽の生き物、稼働を止められない機械、預かっている顧客の資産。こうした現場固有の事情は、こちらから「当社には保冷が必要な在庫がある」と書き足して、もう一度問い直します。3つに絞れたら、それぞれについて「何時間なら耐えられるか」を数字で書いておくこと。この数字が、あとの再開順を決める物差しになります。
ふたつ目の問い:その3つを、誰がどうやって代わりに回すのか
次はこう続けます。「先ほど絞った3つの仕事について、(1)担当者が出社できない場合 (2)事務所が使えない場合 (3)固定電話とインターネットが使えない場合、の3パターンに分けて代替手段の案を出してください。非常用発電機や別拠点など、当社が持っていない前提の設備は使わず、いま社内にあるもので回す案を優先してください。」
条件を足さないと、AIは気前よく「サブ拠点へ移行」「クラウドへ完全移行済みの前提で」と書いてきます。実際の中小企業で崩れるのは、たいていもっと手前です。請求システムのIDとパスワードを社長しか知らない。会計ソフトにはスマホから入ったことがない。注文はいまだに紙の台帳とFAXで来る。原案を読むときは「本当にその人が、その端末で、今すぐできるか」だけを見ます。できないものは線を引いて消し、代わりに今できるやり方を書く。
そして代替の担当は、役職ではなく実名まで落としてください。「経理担当者」ではなく個人の名前です。名前で書くと、本人に確認していないことに気づきます。スマホのテザリングでしのぐ、社用車のシガーソケットでノートPCを充電する、電気が生きている地域の取引先の軒先を借りる——沖縄の停電は地域差が大きいので、「動ける人が動く」が現実的な答えになることも多いです。断水で衛生が保てない業種は、代替を考えるより「この状態なら営業しない」という線を先に決めるほうが早く、社員も迷いません。
みっつ目の問い:連絡の順番と、再開の順番を一枚に並べる

最後の指示文です。「停電の発生から復旧までの間に、誰が誰へ、どの順番で、どの手段で連絡するかを並べてください。社員・顧客・取引先を分け、連絡がつかないときの次の手段も書いてください。あわせて、電気が戻ったあと何から再開するかの順番を、先に挙げた3つの仕事と照らして理由付きで示してください。」
連絡についてAIが出す原案は、きれいなツリー型の連絡網になりがちです。しかし十数人の会社で班長を経由させると、途中で止まって全体が届きません。現実はグループチャットで一斉に流し、返事がない人にだけ個別に電話するという二段構えのほうが機能します。通信が不安定なときはSMSが最後まで残ることがある、という程度の逃げ道も書き添えておくと安心です。顧客への一斉告知は、公式LINEやSNS、ホームページのお知らせのうち、停電中にスマホだけで更新できる経路を選んでおくこと。誰が投稿するかまで決めて初めて使えます。
再開の順番は、AIの答えをうのみにしない代表例です。業務の優先順位としては妥当な案が出ますが、電気が戻った瞬間の機器の扱いという観点が抜けがちだからです。一斉に立ち上げてよいのか、順番に入れるべきなのか、水を使う設備は通水前に確認が要るのか。このあたりは設備やメーカーによって違うので、記事や生成AIの説明で決めずに、保守を頼んでいる業者に平時のうちに聞いて、その答えを書き写すのが正解です。ここだけは「内容による」と割り切ってください。
原案をそのまま社内に配ってはいけない、五つの箇所
三つの問いを終えると、A4で二枚ほどのたたき台が手元に残ります。ここからが人の仕事です。どこをそのまま使ってよく、どこを必ず書き直すのか。目安を整理しました。
| 項目 | AIの原案に出やすいもの | 人が必ずやること |
|---|---|---|
| 仕事の優先順位 | 業種の一般論で並ぶ | 締め日・繁忙期・契約内容を見て社内で決め直す |
| 担当者と連絡先 | 役職名のまま、または空欄 | 実名と現在の連絡先に置き換え、本人の了解を取る |
| 設備・機器の復旧手順 | もっともらしい手順が書かれる | 保守業者やメーカーの指示を優先し、聞いた内容を書く |
| 公的支援・保険の扱い | 使える前提で断定的に書かれることがある | 可否も条件も内容によるため、窓口と保険会社に確認 |
| 「〇時間以内に復旧」等の数値 | 具体的な時間が入ってくる | 根拠がないので、自社が耐えられる時間に書き換える |
この五つを直せば、残りはおおむねそのまま使えます。逆に言えば、直す場所があらかじめ分かっていれば、AIに書かせた文書は十分実用になるということです。全部を疑って読み込むから時間がかかるのであって、疑う場所は決まっています。
当日の進め方は「午前にひとりで、午後に全員で」
作業の段取りも書いておきます。午前中はひとりでAIと向き合い、三つの問いを順番に投げてたたき台まで持っていきます。ここに他の人を入れると議論が広がって終わりません。午後、現場の人を集めて三十分から一時間、読み合わせをします。このとき意見を募ると話が発散するので、聞くことを「これ、実際にはできないという箇所はどこか」の一点に絞ると短時間で終わります。できないと言われた行をその場で書き換えれば、それが完成版です。
仕上げたら印刷して、事務所の見える場所に貼ってください。停電中はPCが開けないので、紙が最後の頼みです。同時に、全員がスマホから開ける場所にもデータを置いておく。この二重化まで済ませて、ようやく一日の作業が終わります。日常業務をAIで軽くしていく進め方は沖縄の中小企業がAIを業務に活かす手順も参考になりますが、BCPはその中でも一回作れば効き続ける数少ないテーマです。
維持は年に一度、十五分で足りる
作ったBCPが使えなくなる最大の理由は、災害が来ないことではなく、中身が古くなることです。担当者が辞めた、電話番号が変わった、新しいサービスを始めた。それだけで紙は嘘になります。だから台風シーズンの前、五月ごろにカレンダーへ「BCP見直し十五分」と入れてしまってください。
見るのは三点だけです。名前と連絡先が今も合っているか。止まると困る仕事の三つは今も同じ三つか。この一年で実際に困ったことはなかったか。三つ目が一番大事で、短い停電やシステム障害でひやりとした記憶は、そのまま来年の改善点になります。手元の紙の内容をAIに貼って、「この一年で当社は〇〇を始めた。変更が必要な箇所だけ指摘してほしい」と投げれば、差分だけが返ってきます。ゼロから作るのは一日、保つのは年十五分。この比率なら続けられます。
まとめ:決めるのは三つだけ、残りは当日の判断でいい
止まると困る仕事を三つ挙げる。それを誰がどう代わりに回すかを実名で決める。連絡と再開の順番を一枚に並べる。BCPと呼ぶかどうかは別として、この三つが紙になっていれば、停電の朝に電話が鳴り始めても、答えられる人が社内に複数いる状態を作れます。AIはその三つを引き出す相手役として使い、優先順位と実名と設備の扱いだけは人が決める。これが一日で形にするための現実的な分担です。
どこから手を付けるか迷う、うちの業種だと何が三つに入るのか判断がつかない、という場合は、お問い合わせから状況をお聞かせください。進め方のご相談から承っています。内容によってできること・できないことは変わりますので、まずは現状を伺うところからで構いません。