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仕入れの発注量がカン頼みの飲食店へ|先週の売上からAIで発注表を作る

明日の仕入れをいくつ頼むか。この判断を、店長の勘と「なんとなく先週もこれくらいだった」という記憶だけでやっている飲食店は、沖縄でも珍しくありません。結論から言うと、レジから出てくる先週の売上データと、曜日・天気という誰でも手に入る情報をAIに渡すだけで、発注数量のたたき台は作れます。作れるのはあくまで「たたき台」で、最後に数字を上書きするのは人です。ただ、ゼロから勘で決めるのと、根拠のある数字を見ながら直すのとでは、外したときの原因の追いかけやすさがまるで違います。

この記事では在庫を数える話には触れません。棚卸しをどう回すかは別の問題で、ここで扱うのは「明日、豚肉を何キロ、島豆腐を何丁頼むか」だけです。

発注ミスは3つの顔で現れる

欠品・過剰・廃棄という発注ミスの3パターンを表したイラスト

発注を外したときの痛みは、実は3種類あります。ひとつ目は欠品。金曜の夜、看板メニューのアグー豚が18時半に切れて、以降の来店客に「本日終了しました」と頭を下げる。売り逃しの金額は伝票に残らないので、経営者からは見えません。見えないまま、常連が「あの店は行っても食べたいものがない」と足が遠のく。これがいちばん静かに効いてくる損失です。

ふたつ目は過剰。欠品が怖いので多めに頼む。結果として冷蔵庫が埋まり、翌日の発注が「まだあるから今日はいいか」と場当たりになる。在庫が読めなくなるので、翌々日にまた欠品する。多めに頼むこと自体は保険として正しいのですが、保険料をいくら払っているか誰も計算していない状態が続きます。

三つ目は廃棄。過剰の行き着く先です。生鮮は待ってくれません。厨房の隅で色が変わった野菜をゴミ袋に入れる作業を、多くの店では調理担当が一人で黙ってやっています。誰にも報告されないので、月末に「今月は原価率が高かったね」という会話で終わる。何がいくつ捨てられたのかが記録されていないから、次の発注に活かせない。

この3つは原因も打ち手も違います。ひとまとめに「発注精度を上げよう」と言っても現場は動きません。だからこの記事も、パターンごとに分けて話を進めます。

パターン1・欠品:ピークの山を先に見せる

欠品が起きるのは、たいてい「その日の総客数」ではなく「特定の時間帯に特定のメニューが集中したとき」です。だから発注の材料として渡すべきなのは、日別の売上合計ではなく、メニュー別・曜日別の出数です。POSレジを使っているなら、商品別売上をCSVで出せます。エクセルで手打ちの日報しかない店でも、直近2週間分をそのまま打ち込めば足ります。

AIに渡すときは、データをきれいに整形しようとしないでください。整形の作業で心が折れて、そこで終わります。CSVをそのまま貼り付けて、こう頼みます。

「これは沖縄県那覇市の居酒屋の、直近2週間の商品別売上です。曜日ごとに、出数の多い上位10品目とその平均出数・最大出数を出してください。そのうえで、明日(金曜)の発注量を決めるための目安を、平均ではなく『8割の日で足りる数量』として品目ごとに出してください。」

ここで大事なのは「平均ではなく8割の日で足りる数量」と指定することです。平均を出させると、半分の日は必ず足りません。欠品を潰したいなら、意図的に上振れ側に寄せた数字を出させる必要がある。この一言があるかないかで、出てくる数量はまるで変わります。

そして出てきた数量を、人が上書きします。上書きの基準はひとつだけ、「その品目が切れたとき、客が代わりに何かを頼んでくれるかどうか」です。生ビールが切れたら泡盛を頼む客はいます。でも「今日はアグー豚が食べたくて来た」という客に代替品はありません。看板メニューと、それを構成する食材だけはAIの出した数量にさらに上乗せする。逆に、切れても他で埋まる品目は、出てきた数字より下げても構いません。この判断はデータではなく、店を知っている人にしかできない部分です。

パターン2・過剰:天気と曜日を数字と一緒に渡す

過剰発注の多くは、「先週の同じ曜日がよく出たから今週も」という単純な横引きから生まれます。ところが先週の金曜が晴れで、今週の金曜が雨だったら、客足は変わります。沖縄の場合はここに台風が乗ってきます。台風が近づいた日の前日は買いだめで昼のテイクアウトが跳ね、当日は夜がまるごと消える。この振れ幅を勘で吸収しようとするから、多めに頼んで余らせることになります。

やることは単純で、売上データに天気の列を1本足すだけです。過去2週間分、日付の横に「晴」「曇」「雨」「強風」程度の粗さで構いません。気温も入れられるなら入れます。そのうえでAILに渡します。

「日付・曜日・天気・気温・総売上・客数が入ったデータです。天気と気温が売上にどう影響しているか、傾向を読み取ってください。明日は雨・気温24度の火曜日です。この条件だと客数と主要品目の出数はどのくらいになりそうか、根拠と一緒に出してください。」

2週間分のデータで統計的に厳密な話はできません。それは承知のうえで使います。AIが出してくるのは「雨の日は客数が2〜3割下がる傾向が見えます」といった粗い読みで、それで十分です。人間が頭の中でやっていた「雨だから少し減らそう」を、数字の形で外に出すことに意味があります。外に出ていれば、翌日「実際は1割しか下がらなかった」と検証できる。頭の中の勘は検証できません。

ここでの人の上書き基準は「その食材が翌日に持ち越せるかどうか」です。冷凍が効く肉や、日持ちする根菜は、AIの出した数量より多めでも損失は小さい。刺身用の鮮魚や、その日に使い切る葉物は、出てきた数量からさらに削ります。同じ「2割減」でも、削っていい品目とそうでない品目がある。この仕分けを一度作っておくと、毎回の判断が速くなります。

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パターン3・廃棄:捨てたものを記録し始めるところから

廃棄だけは、AIに渡すデータがそもそも存在しないケースがほとんどです。売上は記録されているのに、捨てたものは記録されていない。ここが飲食店の発注改善で最初にぶつかる壁です。

いきなり厳密な廃棄記録を求めても続きません。厨房のホワイトボードに、日付と「捨てたもの・だいたいの量」を殴り書きするところから始めます。「8/12 キャベツ 半玉、島豆腐 2丁」で十分です。これを2週間続けて、写真に撮ってAIに渡すか、あるいは週末に10分かけて打ち込む。

データが溜まったら、こう聞きます。

「これは2週間分の廃棄記録と、同じ期間の商品別売上です。どの食材が、どういう日に余っているか整理してください。その食材を使うメニューの出数と、廃棄量に関係があるかも見てください。」

ここで出てくる答えは、たいてい発注量の話ではありません。「木曜に余るキャベツは、木曜だけ提供している定食に紐づいている」「島豆腐の廃棄は、チャンプルー系の出数が読めていないのではなく、そもそも1回の仕入れロットが大きすぎる」といった、発注の頻度や仕入れ単位の問題が浮かび上がってくることが多い。数量を細かく調整する前に、週2回の仕入れを週3回にできないか業者に相談したほうが早い、という結論になることもあります。

人の上書き基準は「その廃棄が、欠品を防ぐために払った保険料として妥当か」。看板メニューを切らさないために少し余らせているなら、それは必要経費です。逆に、誰も理由を説明できない廃棄が続いているなら、そこは削る。AIは「減らせます」としか言いませんが、減らしていいかを決めるのは店の方針です。

3つのパターンで、渡すものと直す基準はこう違う

AIが出した発注数量を人が上書きして発注表に仕上げる流れのイラスト

ここまでの話を並べると、パターンごとに使うデータも、人が最後に手を入れる基準も違うことが見えてきます。

パターンAIに渡すもの出させ方の指定人が上書きする基準
欠品メニュー別・曜日別の出数(2週間分)平均ではなく「8割の日で足りる数量」切れたとき代替が効くか。看板メニューは上乗せ
過剰日別売上+天気・気温・曜日条件を指定して「この日ならいくつ」翌日に持ち越せる食材か。生鮮は削る
廃棄手書きの廃棄メモ+同期間の売上数量ではなく「余る条件」を整理させる欠品を防ぐ保険料として妥当か

この表を厨房に貼っておくくらいでちょうどいいと思います。全部を一度にやろうとせず、自分の店がいま一番痛い1行から始めるほうが続きます。

発注表という形にして、初めて使われる

AIとのやり取りで数字が出ても、それが画面の中にあるうちは現場で使われません。発注は朝の忙しい時間に、電話やFAXや業者アプリで一気にやる作業です。そこにパソコンを開いてチャット画面をスクロールする余裕はない。

だから最後に、こう頼んで形を整えます。「これまでの数量を、品目・発注単位・数量・備考の4列の表にしてください。備考には、その数量にした理由を短く入れてください。」出てきた表をコピーしてエクセルに貼るか、印刷して壁に貼る。備考欄があると、あとで見返したときに「なぜこの数字だったか」がわかります。

そして翌週、実際に足りたか余ったかを表の横に手書きで書き込む。この手書きの1列が、次の週にAIへ渡す材料になります。「先週はこの数量で発注して、豚肉は足りず、キャベツは半分余りました」と伝えれば、次の提案はそのぶん補正されます。この往復を4〜5週間繰り返したあたりから、出てくる数字が店の実態に寄り始めます。初回の精度は高くありません。往復の回数が精度を作ります。

沖縄の飲食店で、特に効きやすい条件

この方法が向いているのは、売上の振れ幅が大きく、かつ食材が日持ちしない業態です。観光客の比率が高い店は、平日と週末、繁忙期と閑散期の差が国内の他地域より極端に出ます。県内客中心の店でも、給料日前後、旧盆やシーミー、地域の行事の有無で客足が動く。この「読みにくさ」こそがAIに渡す価値のある変数です。

逆に、毎日ほぼ同じ数が出る定食屋や、仕入れの大半が冷凍・常温で回る業態では、得られるものは小さいかもしれません。すでにベテランの店長が精度高く回しているなら、無理に変える必要はない。ただしその場合も、その勘が一人の頭の中にしかないという状態は残ります。その人が辞めた翌月から、発注が崩れる。データとやり取りの手順を残しておくことは、属人化への保険としても働きます。

もうひとつ、多店舗展開している場合。店舗ごとに出数の傾向は違うのに、本部が一括で「前年比◯%」で発注量を決めていることがあります。店舗別のデータをそれぞれ渡せば、店ごとに違う提案が出てきます。どこまで店舗に裁量を渡すかは経営の判断になりますが、少なくとも「この店はこういう傾向だ」という材料は手に入ります。

使う前に決めておいたほうがいいこと

実際に動かす前に、社内で決めておくと後が楽な点がいくつかあります。

ひとつはデータをどこまで外部のAIサービスに渡すかです。売上データは経営情報です。一般的なチャット型のAIサービスでは、入力内容が学習に使われるかどうかがプラン設定によって変わります。ここは各サービスの規約を確認したうえで、法人向けの設定や、学習に使われない契約形態を選ぶのが無難です。仕入先の名前や単価が入ったデータをそのまま貼るのが不安なら、品目と数量だけに絞って渡す。それでも発注量の目安は出せます。

もうひとつは誰がこの作業を担当するか。店長が朝の30分でやるのか、事務担当が週末にまとめてやるのか。担当が決まっていないと、最初の2週間だけ盛り上がって消えます。週に1回、決まった曜日の決まった時間に15分、と枠を先に取ってしまうほうが定着します。

導入にかかる費用や、補助金の対象になるかどうかは、使うツールや会社の状況によって変わります。この場で「いくらでできます」「補助金が使えます」とは言えません。気になる場合は、自社の状況に合わせて個別に確認してください。ご相談はこちらから受け付けています。

なお、毎週のデータ整形や集計を人がやり続けるのが負担になってきたら、その部分を自動で回す仕組みに寄せる選択肢もあります。AIエージェントの活用は、こうした「毎回同じ手順を繰り返す作業」との相性がよい領域です。まずは手作業で数週間回してみて、手順が固まってから自動化を考える順番をおすすめします。

まとめ:明日の1品目から

発注をAIに任せる、という話ではありません。勘の中身を数字で外に出して、検証できる形にするという話です。欠品には「8割の日で足りる数量」を、過剰には天気と曜日を足したデータを、廃棄には捨てたものの記録を。渡すものが違えば、返ってくるものも変わります。

そして返ってきた数量は、必ず人が直します。代替が効くか、翌日に持ち越せるか、その廃棄は保険料として妥当か。この3つの基準を持っていれば、直す作業は数分で終わります。

いきなり全品目でやろうとすると、データを揃える段階で止まります。まずは、いちばんよく切れる品目か、いちばんよく捨てている品目を1つ選ぶ。その1品目だけ、先週の出数と天気をAIに渡して、明日の数量を出させてみる。翌日、当たったか外れたかを見る。それだけで、この方法が自分の店に効くかどうかの感触はつかめます。

沖縄の飲食店は、観光の波と地域の行事と天気に、他の地域より大きく揺さぶられます。その揺れを一人の勘だけで受け止め続けるのは、そろそろ限界かもしれません。手元にあるデータは、思っているより使えます。