提案書のたたき台づくりに3日|生成AIで半日に縮める営業の進め方
提案書のたたき台を3日かけて仕上げていた仕事は、生成AIを噛ませることで半日ほどに縮められます。ここで言う「半日」は、AIが提案書を書いてくれるという意味ではありません。ヒアリングの整理と構成案づくり、そして本文の下書きという「時間はかかるのに評価されない部分」を先に潰し、人は価格と約束とお客様固有の事情だけに時間を使うという組み替えです。那覇の商談から戻って、社に帰るころにはもう夕方。それから資料を開いて、白い画面を前に「さて、どこから書くか」で30分溶ける——この30分を無くすだけで、体感はかなり変わります。
この記事では、1件の提案書ができるまでを「ヒアリング整理」「構成案」「本文」「見直し」の4工程に分け、それぞれのビフォーとアフターを並べて見ていきます。工程ごとに、どこで詰まっていたのか、AIに何を渡すと何が出てくるのか、そして人が必ず自分で書かなければならない部分はどこなのかを、順番に。
3日かかっていたのは「書く時間」ではなく「決まらない時間」

提案書に3日かかると聞くと、3日ずっと文章を打ち込んでいる姿を想像しますが、実際にストップウォッチを回すと打鍵している時間は驚くほど短いものです。沖縄県内の中小企業で営業を兼務している方の1件あたりの内訳を追いかけると、多くの時間は「手が止まっている時間」に消えています。商談メモを見返して思い出す時間。前に似た案件があったはずだと過去フォルダを漁る時間。構成をどうするか決めきれずに、章立てを3回書き直す時間。そして、これがいちばん大きいのですが、他の仕事に中断されて、翌日また「どこまでやったか」を思い出し直す時間です。
沖縄の中小企業では、営業専任という配置がそもそも贅沢です。社長が営業を持ち、経理も見て、現場の応援にも入る。建設業なら朝は現場に顔を出してから商談へ向かい、飲食や小売なら店が動いている時間は資料づくりに入れません。宿泊や観光関連なら繁忙期は提案書どころではなく、閑散期にまとめて動く。つまり、まとまった3時間が取れないという構造があって、そこに「白紙から立ち上げる」重い作業を置いているから、3日かかる。作業量が3日分あるのではなく、細切れの隙間に重い作業を詰め込むと3日に伸びる、という話です。
だから縮めるべきは打鍵速度ではなく、再開のたびに毎回ゼロから立ち上げ直す構造のほうです。この観点で見ると、生成AIの使いどころははっきりしてきます。AIは、材料を渡せば必ず何かを返してきます。出来のよさはさておき、白紙ではない状態を数分で用意してくれる。人が白紙と向き合う時間を、たたき台に赤を入れる時間に変換する——これが半日への圧縮の中身です。
工程1:ヒアリング整理|メモの山を「提案の材料」に変える
ビフォー。商談から戻ると、手元にはノートの走り書き、スマホで撮った現場写真、名刺の裏のメモ、そして頭の中にだけある「たぶんここが本音だろう」という感触があります。これを提案書に使える形にするのに、半日から1日。詰まるのは要約作業そのものではなく、何が課題で何が要望で何が制約なのか、線引きが曖昧なまま書き始めてしまうところです。「人手が足りない」は課題なのか、それとも別の課題の症状なのか。「予算はあまりない」は制約なのか、値段を聞きたいだけの牽制なのか。ここが整理されていないと、あとの工程で必ず戻ってきて書き直しになります。
アフター。AIに渡すのは、きれいにまとめたメモではなく走り書きのまま、話した順のままで構いません。むしろ整えないほうがいい。「以下は商談で聞いた内容の断片です。課題/要望/制約/未確認事項の4つに分類して、それぞれ根拠になった発言を添えて出してください。判断に足りない情報があれば、次回聞くべき質問として並べてください」——このくらいの指示で十分です。出てくるのは、分類された箇条と、そして最も価値があるのが未確認事項のリストです。自分では聞いたつもりでいて、実は聞いていなかったことが、機械的に浮かび上がってきます。従業員が20名の会社で「決裁は社長ですか」を聞き忘れていた、繁忙期がいつなのかを確認していなかった、そういう抜けです。
スマホの録音を文字起こしして流し込む手もありますが、お客様の音声を扱う際は事前の了解を取るのが前提です。了解が取りにくい相手なら、商談直後の車の中で自分の声で3分吹き込む方式に切り替えれば同じことができます。記憶が新しいうちに口で吐き出しておくと、あとで文字に起こす作業が要らなくなる分、こちらのほうが速いという方も多いです。
工程2:構成案|章立てで手が止まらなくなる
ビフォー。整理した材料を前に、章立てを考えます。ここが3日のなかで最も「進んでいる感じがしないのに時間が溶ける」区間です。現状課題から入るべきか、それとも提案の結論から入るべきか。相手が社長ひとりで決める会社なら結論先出し、稟議が回る会社なら現状整理を厚めに——といった判断を、毎回ゼロから考え直している。しかも構成を決めきる前に本文を書き始めてしまい、途中で「この順番だと話が繋がらない」と気づいて崩す。この崩しが1回入るだけで半日が飛びます。
アフター。工程1で分類した材料と、相手の状況を数行添えてAIに渡します。「従業員15名の建設業、決裁は社長単独、比較検討している同業他社が1社ある、導入時期は年度内を希望」といった条件です。指示は「この提案書の章立てを、各章で伝えるべき結論を1行ずつ添えて3パターン出してください。パターンごとに、どんな相手に向くかも書いてください」。3パターン出させるのがコツで、1つだけ出させると採用するか捨てるかの二択になりますが、3つあると比べて選ぶ・混ぜるという判断ができます。この選択作業は数分で終わります。
| 工程 | ビフォー(詰まる箇所) | アフター(AIに渡す材料/出てくるもの) |
|---|---|---|
| ヒアリング整理 | 半日〜1日。課題・要望・制約の線引きが曖昧なまま着手し、後工程で戻る | 走り書きのメモをそのまま渡す/4分類+根拠発言+未確認事項リスト |
| 構成案 | 半日。章立てを決めきれず、書き始めてから崩して作り直す | 分類済み材料+相手の状況数行/章立て3パターン+各章の結論1行+適する相手 |
| 本文 | 1日以上。1文字目が出ず、途中で調子が変わる。中断のたび立ち上げ直し | 確定した章立て+各章の結論/章ごとの下書き(事実は空欄のまま) |
| 見直し | 半日。自分の文章の粗が見えず、抜けに気づかないまま提出 | 下書き全文+提出先の状況/指摘リスト(未回答の疑問・根拠不明な断定・矛盾) |
この表の右側は、どれも「AIが提案書を作る」ではなく「AIが人の判断待ちの状態まで運ぶ」だと読んでいただけると思います。判断そのものは全部こちら側に残っています。
工程3:本文|下書きは「事実の欄を空けたまま」出させる

ビフォー。章立てが決まっても、1文字目が出ない。出たとしても、書き進めるうちに章ごとの調子が変わって、あとで読み返すと同じ人が書いたとは思えない資料になっている。そして中断。翌日、続きを書こうとして前日の文章を読み返し、勢いを取り戻すのに20分。この繰り返しで1日以上かかります。
アフター。確定した章立てと各章の結論を渡して、章ごとに下書きを出させます。ここで大事な指示が一つあって、「金額・納期・実績数・他社名など、確認が必要な事実はすべて【要確認】と書いて空欄にしてください。推測で埋めないでください」と明示することです。これを入れないと、AIは文章としての体裁を整えるために、それらしい数字や表現を勝手に置いてきます。それが提案書に残ったまま提出されるのが、この使い方でいちばん怖い事故です。空欄で出てくれば、あとは人が埋めるだけになります。
もう一つ効くのが、自社の過去の提案書を2〜3本読ませて「この文体に寄せてください」と添えることです。生成AIの下書きは放っておくと妙に上滑りした調子になりますが、自社の実物を見本に与えると、ぐっと現実的な地の文になります。沖縄の商習慣に沿った言い回し——たとえば導入時期を繁忙期の前後で切る前提や、離島への出張が絡む場合の書き方などは、過去資料のほうが正確です。
工程4:見直し|自分の文章の粗は自分では見えない
ビフォー。書き上げた達成感で、見直しが甘くなる区間です。誤字は拾えても、論理の飛びや、お客様が聞いていた質問への回答漏れは、書いた本人には見えません。結果として、商談で「ここはどうなるんですか」と聞かれて詰まる。持ち帰って追記して再提出、で1週間が延びる。この延びは提案書作成の時間として数えられていないだけで、実質は同じロスです。
アフター。下書き全文と提出先の状況を渡して、「この提案書を受け取る側の立場で、疑問が残る箇所・根拠が示されていない断定・章をまたいだ矛盾を指摘してください。指摘は重要な順に並べてください」と頼みます。返ってくる指摘の半分くらいは的外れですが、残りの半分に「たしかにここは説明していなかった」が混ざっている。これを拾うだけで、商談での詰まりが目に見えて減ります。
指摘を求めるときは、褒めさせないことも大切です。「よく書けています」から始まる講評は要りません。「改善点のみ」「厳しめに」と指定して、指摘の数を先に決めてしまう(10個出してください、など)と、忖度が減って使える指摘が増えます。
人が必ず書く部分——価格・約束・お客様固有の事情
ここまで4工程を通して、AIに任せた部分と人が残した部分がだいぶ見えてきたと思います。改めて、絶対にAIに書かせてはいけない三つをはっきり書いておきます。
一つめは価格です。見積金額、単価、値引き、支払条件。これは自社の原価と、その案件の手のかかり具合と、相手との関係の長さで決まるもので、AIには材料がありません。それらしい数字を置かれると、それが社としての提示になってしまいます。価格の欄はテンプレート上で空欄にしておき、人が最後に入れる。この運用を先に決めておくのが安全です。
二つめは約束です。納期、対応範囲、保証、担当者の体制。「〜します」と書いた瞬間にそれは契約に近い意味を持ちます。AIの下書きは往々にして「迅速に対応します」「柔軟に対応いたします」といった、後から解釈で揉める書き方を混ぜてきます。約束に関わる文は、書ける範囲を自分で確認してから自分の言葉で書く。書けないものは「内容により要相談」と正直に書く。ここで見栄を張った一行が、あとで何日分の手戻りになるかは、経験のある方ならご存知だと思います。
三つめはお客様固有の事情です。前任者との経緯、社内で誰が反対しているか、以前に別の業者で失敗した記憶、社長の口癖に表れる価値観。提案書が刺さるかどうかは、たいていここで決まります。そして、ここはあなたしか知りません。AIが出した無色透明な下書きに、この情報を織り込んでいく作業こそが、本来の営業の仕事です。半日に縮めた意味は、時間が浮くことではなく、浮いた時間をこの三つ目に注げるようになることにあります。
3日から半日へ、内訳はこう入れ替わる
実際の時間配分がどう変わるかを、ざっくり並べておきます。ヒアリング整理は半日から30分程度に。構成案は半日から20分程度に。本文の下書きは1日以上から1時間前後に。見直しは半日から40分程度。合わせて3時間弱です。ここに、人が書くべき価格・約束・お客様固有の事情の書き込みで1時間半ほど積んで、印刷やレイアウト調整を入れて、半日に収まる。案件の複雑さや扱う商材によって前後しますし、初回は指示の出し方に慣れないぶん余計にかかりますので、そこは差し引いて考えてください。
注意点として、この計算はヒアリングそのものの質が前提になっています。商談で何も引き出せていなければ、AIに渡す材料が空っぽなので、出てくる下書きも空っぽです。AIを入れると、むしろヒアリングの質がそのまま提案書の質に直結するようになります。手が空いた分をヒアリングの準備に回すのが、いちばん効く使い方です。
それから、社内で複数人が提案書を作っている場合は、指示文(プロンプト)を個人の手元に置かず、共有フォルダに一枚のテキストとして置いてください。うまくいった指示の出し方が個人資産のままだと、その人が抜けたときに元に戻ります。あわせて、下書きに残った【要確認】を全部埋めたかを見るチェックだけは、提出前の手順として固定しておくことをおすすめします。
まず1件、次に来る商談で試してみる
いきなり全案件を切り替える必要はありません。次に商談が入っている1件で、工程1のヒアリング整理だけをAIに通してみる。それだけで「未確認事項が3つ残っていた」と気づけるはずで、その気づきの手応えがあれば工程2へ進める。工程を一つずつ増やしていくやり方なら、失敗しても提案書そのものは従来どおりの手順で出せるので、リスクを抱えずに試せます。
沖縄の中小企業で提案書づくりが重いのは、担当者の能力の問題ではなく、まとまった時間が取れない構造の問題です。構造を変えられないなら、重い作業のほうを軽くする。生成AIは、そのために使うのがいちばん素直だと思います。AIエージェント導入支援では、こうした社内の定型業務にAIをどう組み込むかを、業務の実態を見ながら一緒に設計しています。何から手を付けるべきか迷っている段階でも構いませんので、まずはお問い合わせからご相談ください。進め方や範囲は内容によって変わりますので、そのあたりも含めてお話ししましょう。
提案書は、出す前の3日ではなく、出したあとの商談で価値が決まります。たたき台に3日を使っていた時間を、相手の事情を考える時間に振り替える。そこが、この記事でお伝えしたかったことのすべてです。